経済産業省が昨年8月に発表した「伊藤レポート」では、「グローバルな投資家との対話では8%を上回るROEを最低ラインとし、より高い水準を目指すべき」という提言がなされた。2月16日の東京株式相場で、日経平均株価は終値でおよそ7年7カ月ぶりに1万8,000円を回復し、ますます注目されているROE経営だが、なぜ今になって熱い視線を集めるようになったのだろうか。


ROE経営の目的は株主優先

ROE(Return On Equity:自己資本利益率)とは、株主持分に対する当期純利益の比率のことで、一言でいえば株主の“投資”に対するリターンを表している。つまり、ROE経営とは“株主利益”を重視した経営のことである。

企業にはさまざまなステークホルダーが存在する。代表的なものが、顧客、従業員、銀行、株主だ。企業は経営活動を通して得た利益を、これらのステークホルダーに分配する。企業は対価に見合う商品(付加価値)を顧客に提供し、従業員には給与、銀行には利息、そして残った利益は株主に帰属する。

つまり、最後に残る利益が増えなければ、株主へのリターンは増えない。ここで理解すべきなのは、ROE経営にとって重視されるのは売上高や従業員数などの『規模の拡大』ではなく、事業が生み出した『収益率』そのものということである。


売上高の規模を追求するのは「家族経営」

収益力の代表的な指標であるROA(総資産利益率)を見ると、日本企業と欧米企業ではほぼ倍の格差があり、この傾向は20年に渡り続いている。世界でも有数の経済大国である日本が、なぜ“収益性”となると低水準に陥ってしまうのか。

テレビやニュースでも「年商○億円」という言葉をよく耳にするが、年商とは売上高のことであり、売上高がその企業の業績のように表現をしている。これは高度経済成長下の日本では、売上高の規模が経営指標として重視されていたからだ。

売上高の規模を追求する理由の一つに、いわゆる『家族経営』がある。かつて日本の企業風土として、新卒で入社して定年退職まで同じ会社で働き続ける『終身雇用制』は当たり前とされていた。終身雇用制の下では、売上高を増やし雇用の創出を図ることが、企業の使命であると考えられていたのである。『家族経営』では利益の追求よりも、雇用の維持が重視される。利益がほとんど残らない事業であっても、従業員の給与さえ稼げればそれで良かったのである。

株主に対するリターンを度外視する『家族経営』は、パブリックな立場にある上場企業では問題があるかもしれない。しかし、日本のイノベーションを支えてきたのは、このような「長期的な視点に立った人材育成」であったということも事実である。

では、なぜ今になってROE経営が注目されているのだろうか。