グローバルビジネスでの競争相手はWPP

電通はこれまで、国内の広告ビジネスではダントツのシェアを維持してきた。一方で世界最大の大手広告代理店WPPは、いくつものブランドエージェンシーを保有し、一業種一社でクライアントの広告活動を世界的かつ多メディアで展開している。このためグローバルの広告ビジネスという観点から見れば、電通はWPPとの全面対決を視野に入れざるをえない。

この戦いに勝つためには、世界のマルチエリアでのマーケティング活動をサポートできるグローバル人材も必要になるし、同社がもともと強みとしてきているメディアプランニングやバイイングについても、グローバルマーケットで存在感を示す必要がでてきた。

これを実現するためには、国内のマーケットだけに精通する人材だけでは対応できず、イージスの買収というインオーガニックな成長を基点として、大きな経営の変革を考えることが急務となっている。したがって給与水準の高いシニア層の早期退職で会社の若返りをはかり、同時にこれまで社内にはなかったリソースの補給に尽力しはじめていることが容易に理解できる。


コテコテの日本的経営からの脱却が課題

またイージス買収により、これまでの電通と異なるカルチャーを持った大量の社員をマネジメントすることも、大きな課題になってきている。

リーマンショック後、野村證券がリーマンのアジア欧州部門を買収したが、人件費の高さに加え、そもそもの日本の企業カルチャーと元リーマンの社員とのケミストリーがまったくフィットせず、優秀な人材が大量に社外に流出するという事態に陥ったのは記憶に新しい。電通の日本的経営が、ゆくゆくはイージスのマネジメントで大きな齟齬を来たし、組織の崩壊さえ招きかねないといっても言い過ぎではない。

このため、電通内においてグローバルマネジメント人材の積極的な登用もまた、必須となっていくことは間違いない。

たしかに国内ではテレビ広告の仕組みについても新聞広告の扱いについても電通がそのベースを築き、いわば業界の法律となってきたことは疑いない。しかしひとたび国外に足を踏み出せばそうした力は通用せず、個別の市場に合わせるための調整も必要になってくる。

こうしたグローバルマネジメント上の課題はまさに同社にとっては初めての経験といえるもので、応分の能力を発揮できる人材の育成や開発、外部からの取り込みは非常にプライオリティの高い問題となってくる。そのためにも早急に既存組織のリノベーションが必要であり、だからこそ今後も継続的な早期退職を行なうことで、新陳代謝をはかろうとしているのだ。