『黒字倒産』という言葉があるが、会社の業績と資金繰りは必ずしも一致するものではない。資金繰りを考える上では、債権の回収サイト、債務の支払サイト、借入金返済や税金支払など、利益とは直接関係のない要因についても注意が必要である。
本稿では、安全性分析の手法を紹介しながら資金繰りで意識しなければならない事項を紹介する。
売上が急激に増えると資金繰りが悪化する?
多くの経営者は売上を増やすことばかりに目がいきがちであるが、売上が急激に増えると資金繰りが悪化することがある。その理由は『運転資金サイクル』にある。『運転資金サイクル』とは、『仕入』と『売上』に関する資金の流れのことである。
一般的な取引では、先に『仕入』があり、その後に『売上』が計上される。つまり、資金の支払と回収に時間差が生じるのである。資金繰りの管理をおろそかにしていると、得意先からの要請などにより売掛金や手形の決済期日が延長され、「いつの間にか売掛金と受取手形の割合が高くなっている」ということがある。支払サイトはより長く、回収サイトはより短くする努力が必要である。
『運転資金サイクル』の安全性分析
『運転資金サイクル』の状況を把握するために、定期的に以下の指標により、安全性分析を行う必要がある。
- 手許流動比率=(現預金+有価証券)/(月平均売上高)
この比率は、即座に資金化できる資産が、月平均売上高に対してどの程度保有されているかを表したものである。売上高が増加傾向にあると相対的に比率が悪化する。
- 売上債権回転月数=(売上債権)/(月平均売上高)
売上債権(売掛金、受取手形)が、月平均売上高に対してどの程度滞留しているかを表した指標である。短期間で売上高が急増した場合には、売上債権の回転月数が長くなる。標準的な回転月数は業態により異なるが、売上債権が資金化されるまでの期間が長くなるということは、資金繰りが悪化する原因となる。
- 在庫回転月数=(棚卸資産)/(月平均売上高)
棚卸資産が、月平均売上高に対してどの程度滞留しているかを表した指標である。急激に売上高が増加している場合には回転月数が長くなるが、売上高の減少や不良在庫の増加によっても回転月数が長くなる。棚卸資産の増加は資金が“寝る”ことを意味しており、不良在庫の場合は資金化されないことも考えられる。この指標が長くなっている場合は原因を調査することも大切である。