「外的環境は無関係」どん底時代の仕込みの成果

同氏が社長に就任してからの同社は、営業に強い。戸田建設での38年の間に、積算や現場の統率、建築、設備など、オールマイティな現場知識や経験を身に付けているほか、取得した資格は15種を数える同氏。同氏はこの幅広い知見によって、懸案の物件を取るべきか取らざるべきか、いくらで利益が出るか、先方の予算がどれぐらいで、いくらぐらいが落としどころになるか、といった予想ができるという。この目利きのノウハウを社長就任からの2年間で営業職に教え込んだところ、同社は受注率が大幅にアップし、赤字工事が激減した。

また、アベノミクスによって建築業界は「仕事は増えたが、人が足りない」状態に陥っているが、これも同社にはどこ吹く風だ。同社は設備会社としては珍しく、自社で30名弱の直傭工を抱えている。このため、瞬時に工事に取り掛かることが可能で、人を確保できずに仕事ができない心配は少ないのだ。

こうした様々な改革が功を奏して、V字回復をみせた同社。同氏は、アベノミクスや東京オリンピック開催決定など「景気が上向いたおかげで」回復したと思われることが不本意だと語る。すべてはどん底の2年間にコツコツと仕込んだことの成果であり、さらに言えば、北海道での下積み社員時代に培った同氏の人間力が土壌となっているからだ。


「両親のDNA」北海道で育くまれた大きな器

「私はご先祖様に守られている。その上で、必ずできると信じることで、道が拓けていくんです」と語る同氏。どこへ行っても、同氏のいる場所は明るく、士気が高まっていく。そして、いつでも周囲から愛されてきた人柄が、難局での救いの手へと繋がっている。

同氏は自身のそんな人間力について、両親からの影響をまっさきに口にする。

「父のことを悪く言う人を知らない。嫌いな人にこそ酒をおごって、給料袋はいつも空」という炭鉱の社長も務めた父と、「実質的には母が社長だったようなもの。パワフルな人で、エピソードには事欠かない」という母。父・哲一氏は生涯現役のまま89歳の天寿を全うしたが、母・淑子氏は86歳の今なお健在だ。

同氏は当面の目標である売上100億円に5年後に到達するビジョンを持っており、目下土台作りに努めているという。現在、社員一名あたりの売上可能高が8000万円。社員数124名であるから、現時点で100億円の計算が成り立つ潜在能力を秘めている。「現場の社員が疲弊しないように部門ごとのバランスを取りながら、しっかり組織作りをしていきたい」と語る同氏。圧倒的な人間力に統率される同社の今後が面白い。

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