東京本社との差別化

こうして『さかた産業フェア』への出展を重ね、地域への浸透に努める同社は、スタッフ10名のうち主要メンバーの多くが酒田、あるいは周辺地域の出身だ。しかし、東京に30~40名規模のエス・エー・エス株式会社がある一方で、子会社が酒田に存在することの意義はどこにあるのだろうか。

改めて尋ねると、「クリエイティブな仕事という意味では、お客さんの近くにいて、意見をたくさん聞けて、それを取り入れて開発する方が、良いゲームや良いコンテンツを作るには適しています(水越)」との答だ。遠距離でのやりとりについては、メールや電話、テレビ会議などの手段もあるにはあるが、億劫がられてしまうことは多いという。

「酒田にいるというのは、この業界においてはデメリットしかないんです(水越)」

そうまで言い切った上で、なお酒田にあり続ける理由について佐藤氏は、「人、人材です」と即答した上で、「社員の人柄、地域柄に酒田ならではの個性があり、東北出身という意識がもたらす結束力も強いんです」と続ける。また、自分たちは離れたところにいるからこそ、近くにいる人よりももっと頑張らなくてはいけない、という気持ちを常に持っているという。

クライアントに距離を感じさせない対応を心がけており、こうした「遠い酒田だからこそ」の意識は、過剰とも言えるほど持つようにしているとさえ語ってくれた。その結果、クライアントから「この仕事は酒田エス・エー・エスに頼みたい」と指名を受けるケースも増えている。同社が持つ技術力、そしてスタッフの人柄が、距離のデメリットを超える事例が既にあるということだ。

「以前は、東京のお客さんのもとへ出張することもありましたが、今ではそれも年に1、2度です。現在3年ほど手がけている大手企業との仕事でも、東京に来なくていいと言っていただいています。中には酒田に来てくれるお客さんもいて、もしかするとそれは酒田名産の食べ物や飲み物などが目当てという部分もあるかも知れません。しかし、それも含めて、『酒田』のメリットだと思っています(水越)」

距離によるデメリットを感じさせない仕事をすることで、クライアントの信頼を勝ちとっているのだ。さらに、酒田にいても東京にいても、また水越氏自身が過去に赴任経験のあるアメリカや台湾にいても、場所を問わず品質の高い仕事ぶりを示すことで、業界の体質を改善したいという思いもあるという。