さまざまな誤解が財政議論を捻じ曲げてしまっているようだ。よく聞く誤解がある主張に対して、回答を用意してみた。

よくある主張
政府の負債が家計の資産を上回り破綻するのは近い!

回答
1200兆円の政府の金融負債に対して、家計の金融資産は1700兆円程度である。政府が年間30兆円程度の赤字を出し続ければ、15年程度でのその差が無くなってしまうと言われることがある。財政破綻への終末論としてよく聞く意見である。

しかし、政府が負債を増加させ、支出をすると、民間の所得となり、民間の資産が増加することになる。政府の負債が増加しても、民間の資産が逃げ水のように増加していくことになる。民間の資産がまったく増加しないケースは、政府がすべてを海外で支出することであるが、非現実的である。

まして社会保障の支出であれば、ほとんどが国内で支出され、民間の所得となり、民間の資産が増加することは明確だ。民間の資産が一定で、政府の負債が財政赤字により増加していき、いずれ逆転すると破綻するという説明の仕方は、実体経済の動きとはかけ離れており、間違いである。

貯蓄投資バランス上の対外収支の悪化度合いは、政府の負債の増加幅から、民間の資産の増加幅を引いたものであり、その幅はかなり小さい。しかも、対外収支が赤字に転じたり、対外債務国になっても、すぐに財政が破綻するわけではないのは、黒字の国もあれば赤字の国もあるのが普通であることで自明だ。

金融資産の存在は、誰かの金融負債が裏付けとなっている。企業の負債が縮小している時、政府まで負債を縮小してしまえば、家計の所得が破壊され、家計の資産が釣り合うところまで減少してしまうことになる。

これがデフレ・スパイラルといわれる現象であり、企業の負債が縮小している時の財政緊縮が、経済の持続的な拡大にとっていかにリスクが大きいかを示している。

日本の国際経常収支の黒字額は多いときでも20兆円程度であった。

2011年の東日本大震災の時、20兆円を越えるような復興予算が必要となり、経常黒字を超える額を国債でまかなえば、貯蓄・投資バランス上、経常赤字国に転落し、国債市場が暴落するという意見が多かった。結果として、復興増税が必要であるとして、増税策の議論が足かせとなり、復興予算の決定と執行は遅れてしまった。

しかし、例えば、復興で20兆円程度支出をすれば、国内の所得は19兆円程度増加するだろうから、貯蓄投資バランス上、経常収支の黒字額は1兆円程度しか小さくならないのが現実であろう。政府の負債と民間の資産の関係を、実体経済の動きとかけ離れた認識で見てしまうと、震災復興などの急務の政策の足かせにもなってしまうことになる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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