設備投資・雇用:設備投資計画は大幅上方修正、人手不足はやや緩和

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は全規模全産業で0と、前回から1ポイント上昇した。また、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)も全規模・全産業で▲15と前回から2ポイント上昇した。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I.を加重平均して算出)も前回からやや上昇(▲11.1ポイント→▲9.4ポイント)している。設備・雇用ともに製造業での上昇が非製造業を上回っており、最近の生産減少によって、逼迫感がやや緩和したと考えられる。

前回よりは緩和したとはいえ、依然不足感の強い人員について内訳を見てみると、従来同様、製造業(全規模で▲5)よりも、労働集約型産業が多い非製造業(全規模で▲22)の方がより人手不足感が強い。また、企業規模別で見ると、中小企業が▲16と大企業の▲9を大きく下回る状況が続いている。ここには、企業規模による人材調達力の違いが反映されているとみられる。

この結果、中小企業非製造業では▲22と大幅なマイナスが続いている。人手不足は製造業・非製造業や企業規模を問わず幅広く浸透しているが、特に中小企業非製造業において深刻な課題になっている。

先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.が現状比2ポイント低下の▲2、雇用判断D.I.は3ポイント低下の▲18と、ともに不足感が強まる見通しであり、両者を反映した「短観加重平均D.I.」も再び低下に転じる見込み(▲9.4ポイント→▲12.1ポイント)。特に雇用判断D.I.の低下が中小企業を中心に目立っており、中小企業における人手不足に対する警戒感が現れている(図表9,10)。

日銀短観(6月調査)-9

14年度設備投資計画(全規模全産業、実績)は、前年度比4.3%増(前回は同4.4%増)と前回比でほぼ横ばいとなった。ちなみに、例年6月調査(実績)では、大企業で下方修正、中小企業では年度計画が固まったことに伴って上方修正される傾向が強く、全体としては特段方向感に統計上のクセはない。従って、実態としてほぼ前回計画どおりだったと見てよいだろう。

また、焦点の15年度設備投資計画は、14年度(実績)対比で3.4%増(前回は同5.0%減)と大きく上方修正された。例年、3月調査から6月調査にかけては、計画が固まってくることに伴って、上方修正される傾向が強いが、今回はこの時期としては近年まれに見る大幅な上方修正が行われている。企業規模別では特に大企業、なかでも製造業において例年を大きく上回る上方修正となっている。

これまで力強さを欠いてきた設備投資だが、今回は15年度計画が大きく上方修正されているため、従来よりも勢いが感じられる内容と評価できる。好調な企業収益を背景に投資余力が高まっている中で、設備の老朽化や人手不足に伴う省力化投資需要、一部生産設備の国内回帰の動きなどが反映されたとみられる。

なお、15年度計画(全規模全産業3.4%増)は事前の市場予想(QUICK集計0.7%増、当社予想は1.3%増)を大きく上回る結果であった。

日銀短観(6月調査)-10


企業金融:企業の資金繰りと資金調達環境は良好

企業の資金繰り判断D.I.(「楽である」-「苦しい」)は大企業が22で前回比横ばい、中小企業が5で、前回比1ポイント改善した。また、企業サイドから見た金融機関の貸出態度判断D.I.(「緩い」-「厳しい」)も、大企業が27で前回比横ばい、中小企業が16で前回比1ポイント改善している(図表13,14)。

両D.I.ともに小動きの状態が続いているが、方向性としては改善基調にある。また、D.I.の水準は大企業・中小企業ともに、過去との対比でかなりの高水準にあり、総じてバブル期やリーマン・ショック前の好況期のレベルに達している。

1.政府・日銀による貸出増加への強力なサポート、2.企業収益の改善とそれに伴う信用リスクの低下、3.歴史的な超低金利、4.銀行側の厳しい競争、などが銀行の貸出を強力に後押ししており、企業の資金繰りも改善、企業を取り巻く金融環境は引き続き良好(緩和的)である。

上野 剛志
ニッセイ基礎研究所 経済研究部

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