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(写真=PIXTA)


ホテル客室不足とその要因

現在、都市部を中心にホテル客室の逼迫度が高まっている。多くの主要都市で客室稼働率は過去10年間の最高水準を更新しており、オータパブリケーションの全国ホテル稼働率調査によると2013年10月以降、20ヶ月連続で前年同期と同等か上回る状況が続いている。

今年2月から3月には、中国の旧正月休暇などによる訪日外国人の増加や春休み・受験シーズンなどが続いたことによる客室不足から、東京では一部ビジネスホテルで一室3万円と通常の3倍の料金が付けられたと話題になった(i)。稼働率は4月、5月になってもさほど低下せず、ホテル客室の逼迫度が緩和する兆しはない。

こうしたホテル客室需給の逼迫理由として第一にあげられるのが、訪日外国人旅行者数の大幅な増加だ。

今年5月までの訪日外国人旅行者数は754万人で前年比45%の大幅な増加となった。2013年に1,036万人、2014年に1,341万人と増加してきたが、今年は5月までの過去12ヶ月間の累計が1,575万人に達しており、現在の勢いが続くと年間で1,700万人の達成がほぼ確実だ。

第二の理由が、経済や所得・雇用環境の改善に加え円安に伴う国内旅行志向の高まりなど(ii)から、外国人だけでなく日本人の国内宿泊も再び増加しはじめたことである。

宿泊旅行統計によると、日本人の延べ宿泊者数は2014年の一年間に前年比で▲489万人泊の減少だったが、今年は5月までに前年比で+399万人泊(+2.4%)の増加と反転した。ちなみに外国人は5月までに前年比で+826万人泊(+47.5%)の大幅増加だった。

第三の理由として、宿泊需要が大幅に増加する一方、ホテルと旅館の客室数が増加していないことがあげられる。近年、旅館の廃業で旅館の客室数が大きく減少しており、ホテル客室数の増加にもかかわらず、ホテルと旅館の合計の客室数は過去20年間、ほぼ横ばいで推移している(図表1参照)。

現在、ホテルの増築や新規開発が次々に公表されているが、宿泊需要の増加に追いついていないのが現状だ。しかも、毎年8月には日本人の国内旅行が大幅に増加することから、客室の逼迫度はさらに高まり、この夏にも宿泊施設不足から大量の宿泊需要を取りこぼす可能性が高い。


ホステルなど簡易宿所の急増

ホテルの客室不足下で最近、急速に増加しているのが、ホステルやカプセルホテル、ゲストハウスなどだ(iii)。旅館業の施設数を見ると、旅館が毎年約1,500軒減少し、ホテル数も2008年から2013年の5年間に206施設の増加にすぎないが、ホステルなどの簡易宿所は2008年以降、2,510軒の増加と、毎年平均で500軒の増加を続けている(図表2)。

簡易宿所のベッド数・収容人数は統計上把握できないが(iv)、一施設あたり30~50ベッドならば、年平均で15,000~25,000ベッド、5年間の実績で75,300~125,500ベッドが簡易宿所で新たに提供された計算になる(v)。このように、ホテル客室の需給が逼迫する中で、ホステルなどの簡易宿所が宿泊需要の増加に重要な役割を果たしてきたと思われる。

ホテルと旅館の施設数・客室数

ホステル等の急増には、供給側の要因も強く働いている。大都市におけるホステルなどの新設では、築古オフィスからのコンバージョン(用途変更)先としての利点があるからだ。

オフィスとしては築古で立地が悪く、今後、安定した収益が望めない場所でも、ホステルやカプセルホテルであれば、1.十分競争力の高い立地で、2.ホテルに比べて高い坪効率を実現でき、3.短い修繕期間、4.安い修繕コストでコンバージョンできるというメリットがある(vi)。

そうした利点も、大手不動産会社や不動産コンサルティング会社で、新たにコンバージョンによるホステル事業に進出するところが現れてきた理由のひとつと思われる。