民泊ビジネスの急拡大と規制緩和

ホテル不足の深刻化と宿泊料金の上昇により、旅行者から大きな注目を集めているのが、自宅の空き部屋を貸したい人と、宿泊先を探す旅行者との仲介を行うインターネットサイトだ。

大手のAirbnb(エアビーアンドビー)は191カ国100万件以上の物件登録があり、日本の登録も1万件を超えたという。外国人を中心に利用者が急増しているようだが、現行法では空き部屋を「業」として賃貸することは旅館業法違反の可能性があると大きな問題となっている。

その一方で、政府はこうしたインターネットを通じて自宅やその一部あるいは別荘などの宿泊者を募集する民泊サービスの規制緩和の検討をはじめており、来年度までに結論を出す方針だ(vii)。

現在、政府の規制緩和により、すでに実施されている農林漁業体験民宿業のような民泊サービスもある。今年度からは、各地の大きな祭りなどのイベント開催時に一時的に宿泊施設の不足が見込まれる場合、自治体の要請により旅館業法の許可を受けないで自宅を提供できるという規制緩和が決定している。

これに応じて、株式会社百戦錬磨では民泊検索・予約サイト「とまりーな」の、大規模イベント時への運営拡大を公表しており、今後、民泊ビジネスも急速な拡大が見込まれる。


さらなる早急な宿泊施設供給の必要性と規制緩和によるビジネスチャンスの拡大

不動産投資の視点から見ると、宿泊施設は高齢者施設とともに、今後の需要増が見込める有力な投資先である。しかも現在、宿泊需要の急増に供給が追いつかず、宿泊施設の新設は喫緊の課題となっている。しかし、人件費や建築コストの高騰、開発素地の不足などから、建築着工統計をみても新規開発はなかなか進んでいないのが現状だ。

こうした状況も、築古オフィスのホテルやホステル等へのコンバージョンの取り組みを急拡大させている。その動きを後押しするように、政府は本年6月に「規制改革に関する第3次答申」および「規制改革実施計画」において、既存不適格建築物の増築や用途変更時における規制緩和の実施あるいはその検討を明らかにした。これにより、築古のオフィスビルなどの宿泊施設への用途変更や増築が容易になる可能性が高まってきた。

今年から来年にかけて、日本の人口は一年間に40万人以上減少すると予測されている。日本が本格的な人口減少時代に突入する中で、有望な投資先である宿泊施設(シティホテル・ビジネスホテル・リゾートホテル・旅館・ホステル・ゲストハウス等)での急増する需要を取りこぼさないよう、早急に十分かつ安定した供給を実現する必要がある。

ホテル客室需給が逼迫する現在の状況下では、オフィスなどの宿泊施設へのコンバージョンや民泊による宿泊施設の新規供給は不可欠と考えられるため、政府による規制緩和の動向を注視し、それを最大限活用した適切な新規供給が行われることが望まれる(viii)(ix)。

(i)沢柳知彦「主要都市でホテル不足が深刻化、それでも供給増には限界」週刊エコノミスト2015年6月2日号、「国内外からレジャー客急増で“ビジネスホテル難民”が続出」週刊ダイヤモンド2015年4月18日号などを参照のこと。
(ii)これらの他にも、団塊世代の退職などによる高齢者の旅行需要の拡大などもあげられる。
(iii)これらの業態のほとんどは旅館業法上での簡易宿所にあたると考えられる。旅館業法第二条によると、「この法律で「簡易宿所営業」とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のものをいう。」とされている。なお、「この法律で「下宿営業」とは、施設を設け、一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業をいう。」
(iv)厚生労働省の「衛生行政報告例」では簡易宿所は施設数のみ記載されている。観光庁の「宿泊旅行統計調査」では簡易宿
所も調査対象となっているが簡易宿所が項目として集計されていない。
(v)簡易宿所として5年間に提供されたのが10万ベッド(2,500軒×40ベッド/軒)とすると、この期間に年間3,650万人泊分(10万ベッド×365日)の宿泊スペースを簡易宿所が新たに供給したことになる。
(vi)綜合ユニコム「月刊レジャー産業資料」2015年7月号月刊を参照のこと。
(vii)規制改革会議「規制緩和に関する第3次答申~多用で活力ある日本へ~」平成27年6月16日
(viii)訪日外国人の動向については竹内一雅「急増する訪日外国人のホテル需要と消費支出-2014年の訪日外国人旅行者数は前年比+29%増、外国人延べ宿泊者数は同+34%増、消費額は同+43%増で2兆円を突破」基礎研レポート2015年5月21日、ニッセイ基礎研究所も参照のこと。
(ix)本稿執筆にはJLLの沢柳知彦氏、綜合ユニコム「月刊レジャー産業資料」の上野恒治氏から貴重なコメントを数多くいただいた。

竹内一雅
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

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