今後のComply or Explain検討に向けて

6月1日に改正施行された有価証券上場規程は「上場企業は、『コーポレートガバナンス・コード』の趣旨・精神を尊重してコーポレート・ガバナンスの充実に取り組むよう努めるものとする」と規定した。

コーポレートガバナンス・コードは、ルール上は尊重規定にとどまるが、事実上、コーポレート・ガバナンスを実現するためのベスト・プラクティスとみなされる可能性がある(11)。「全ての原則を一律に実施しなければならない訳ではないことには十分な留意が必要」(12)というのが、Comply or Explainの手法が導入された趣旨ではあるが、実際にExplain を選択する場合は、株主等に対して十分に合理的で納得のいく説明が必要となるだろう。

実際に、始まって間もないComply or Explainの表明をみると、実施予定とするものを含めればコード原則は概ねComplyされる方向にある。とはいえ、東証1部および2部上場企業の中でも、企業毎に業種特性や業容の差は小さくない。限られた資源、労力と時間を前提とすれば、すぐにComplyとはいかない原則もあるのは当然だろう。企業の基本的考え方や個別事情に照らして Explainを選択する原則があれば、最低限これを決めた上で、残りの原則については時間を要してComplyするのが、現実的な対応ということになろうか。

一方で、今回、企業がComplyまたはExplainの一方を選択しても、それは固定化されたものでもない。外部環境の変化や内部事情の変更によって、今後、見直しに至ることもあるだろう。逆に、変化に即し、企業統治をPDCAサイクルによって不断に改善していくことこそ重要であると思われ、株主等ステークホルダーからも歓迎されるに違いない。

いずれにしても、企業と株主等との「建設的な対話」はガバナンス報告書等をもとに、今後、本格化していくことになるだろう。コードの要請に応えてComplyするからと言ってExplainの必要がないわけではない。「建設的な対話」の流れにあっては、続いて具体的に「どのように実施するのか」が問われてくる。

株主等は、ガバナンス報告書や企業Webサイトに掲載される「コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針」、IR関係の様々な開示を含めた説明に満足できなければ、対話の中で更なるExplainを求めてくるかもしれない。

繰り返しになるが、株主等の側にも、企業の個別の状況を十分に尊重することが求められている。双方がコードの趣旨・精神を十分理解した上で「建設的な対話」を重ねていくことによって、現実的かつ真に有益な形で、コーポレート・ガバナンスの強化が進んでいくことを期待したい。

(1)東証有価証券上場規程419条1項・2項、同施行規則415条2項
(2) 東証「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」(2015年6月改訂版)冒頭枠囲み
(3) 同 別添1
(4) 「コーポレート・ガバナンス原則に基づく開示」を開示した図表1掲載の58社以外の企業は、きんでん、サニックス、コニカミノルタ、ニッカトー、古河電気工業、木村化工機、ノーリツ鋼機、美津濃、日本瓦斯、第一生命保険の10社(東証データベース8/14更新分)
(5) 「今後の検討課題」等、当面は実施しない趣旨と解される開示例は含まない。
(6) 高山与志子「取締役会評価とコーポレート・ガバナンス」商事法務2043号(2014)、北川=大杉=高山=石黒「座談会 取締役会評価によるガバナンスの実効性確保に向けて(上)」商事法務2049号(2014)
(7) コード原案序文11項
(8) コード補充原則3-1(1)
(9) コード原案序文12項
(10) コード原案序文12項
(11) 澤口=内田=角田=金村「コーポレートガバナンス・コードへの対応に向けた考え方[I]」商事法務2066号(2015)P.11
(12) コード原案序文12項

江木聡
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

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