日本の税制は、申告納税制度のもと総合課税が原則となっている。しかし、金融商品については、不労所得であることや金融機関を通じ徴税が容易であることから、金融商品に応じて、源泉分離課税や申告分離課税となっていた。また、それぞれ税率にも違いがあった。それを2016年1月からは、一体化していこうというのが「金融所得課税の一体化」である 。

アベノミクスにおいては、株価の上昇が至上命題であると共に、少子高齢化により労働人口が減少する中で、日本が経済成長を果たすためには、貯蓄から投資へのマネーの移動が必要不可欠である。また、金融商品が複雑化し、それに税制を合わせていくことが困難になりつつあり、金融界からもわかりやすい税制にするよう要望がなされていた。そのような背景から、税の一体化の流れにつながった。

今回の改正では、国債・地方債・外国国債・外国地方債・公募公社債・上場公社債などの公社債が対象で、デリバティブなどはまだ対象とはなっていない。その意味で、「金融所得課税一体化」への第一歩と言ったところだ 。

具体的に見てみると、特定公社債の利子は、20.315%の源泉分離課税、売却益は非課税、償還差益は雑所得の総合課税だったものが、今回の改正で、全て20.315%の申告分離課税に変わる。

簡単に説明すると、源泉分離課税というのは、他の所得と完全に分離して所得の支払者が源泉徴収を行う、すなわち支払う前に税金を控除してしまう方式である。総合課税というのは、給与など他の所得と合算されてその額に応じて税率が決まるものである。申告分離課税は、他の所得と分離はされるものの、支払う前に税金が引かれるのではなく、確定申告によって税を納めるものである。

では、「金融所得課税の一体化」によって何が変わるのであろうか。第一に税が一体化されることにより、それぞれの税制の違いを考えなくてよくなるということである。

また、源泉分離課税や総合課税から申告分離課税への変更理由は「損益通算」を可能にするためだと言われている。また、総合課税にしなかったのは、富裕層など所得税率が高い人の投資意欲を損なわないようにするためだ。

損益通算のメリットとしては、たとえば、上場株であるA株で5万円の売却損があり、B債の償還損益で5万円の利益が出た場合、これまでであれば、5万円の利益については、A株との損益通算は認められず、総合課税の税率が課されていた。

それが、改正により、A株の損失5万円とB債の利益5万円が損益通算され0円になるので、その分については課税が発生しないことになる。さらに、損益通算の結果、控除しきれない損失がある場合には、翌年以後3年間にわたり繰越控除が可能なので、利益から損失が控除しきれない場合でも次年度以降利益が出れば、損益通算により利益を減らすことが可能で、より投資がしやすい環境が整うことになる。

また、特定口座が公社債等でも使えるようになるため、申告の手間が省けるというメリットもある。特定口座とは、個人投資家の申告・納税手続きを簡素化するために、証券会社が1年分の損益を取りまとめた特定口座年間取引報告書を作成し、翌年の1月末までに交付するというものだ。ただ一方で、公社債等の譲渡益については、これまで非課税だったものが、課税となるので、利益が出ている場合には今年中に売却することも検討する必要がある 。

今後は、デリバティブや預金なども含めて損益通算できるように検討が進められており、これが実現すれば、さらに分散投資によるリスクヘッジが可能になる。マイナンバー制度の導入で金融所得がすべてリンクするようになれば、将来的には申告も容易になることが予想される。投資環境が整っていく中で、投資知識の差によって所得格差がさらに広がるようになるのかもしれない。(提供: Vortex online

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