スポーツは趣味ではなく、歯磨きのように生活習慣に組み込むべきものだと思っている。だが、戦後日本のスポーツ施設が学校を中心に作られたことにより、教育の「育」が入って「体育」になってしまった。そのことで先輩後輩のような厳しい上下関係や、指導者が進路や成績を人質にとり、文句も言えないような環境が体罰を引き起こした一因にもなっているケースはあるだろう。

それに多くの人は小中高のどこかでスポーツをやってきたはずだが、みんなどこか途中でやめてしまう。学校の切れ目がスポーツの切れ目になってしまう。

だが、本来のスポーツは肉体面だけではなく、人々の心も健やかにすることができる。先日、女子ワールドカップでなでしこジャパンが準優勝という素晴らしい結果を残して、国民の多くが感動した要因はなんだろうか?

選手たちが自身より遥かに身体の大きなイングランドやアメリカの選手相手に一生懸命戦う姿と勇気、友情、団結といったものが我々の琴線に触れたからではないだろうか。人間は一人の力ではたいしたことができないけれど、力を合わせることで大きな困難に立ち向かうことができる。こんなことを教えてくれるのもスポーツの素晴らしさだと思う。


「生涯スポーツ立国」実現のために

「生涯スポーツ立国」実現のために一番大事なことは、スポーツ施設をどうやって増やしていくかということ。自分が代表を務めるアーセナルSS市川の人工芝ホームグランド「北市川フットボールフィールド」もそうした思いで作った。

人口47万人の市川市と同規模のルクセンブルクには、立派なスタジアムやサッカー場が数多く存在する。それが市川市には照明付きのフルコートはここにしかない。だが市川市が特別なのではなく、首都圏の多くの地域でも似たような状況だ。

我々は税金を一切使わず、民間のファンドを組成しグランドとクラブハウスの建設費を捻出する「PFI(Private Finance Initiative)」という仕組みを活用した。このような新しいビジネスモデルがもっと普及すれば、グランド不足解消の一助になるかもしれない。

私たちのグランド建設費は約1億円だ。新国立競技場の建設費2500億円が1500億円でできるなら、削減した1000億円で1000個もグランドができる計算になる。もちろんサッカー場だけ作ればいいというわけでなく、色々なスポーツ施設が身近にできればいい。

この記事の読者も運動をしなくてはいけないと思っている人はたくさんいるはずだ。だからこそ、身近に手軽にできるスポーツ施設を作ることで、そのハードルを下げ、そういう人たちがこちら側に気軽に来られる仕組み作りが大切だと思っている。

2020年の東京オリンピックは、メダルを何個取るかということより、誰もがスポーツを自ら楽しむことが日常となる“元年”になってほしいと思っている。オリンピックが終わったとき、新国立競技場には“レガシー”ではなく、だれもがスポーツを気軽に楽しめる「生涯スポーツ立国」の始まりを象徴する存在であってほしい。

文・幸野健一
1961年9月25日生まれ。東京都新宿区出身。育成を中心にサッカーの課題解決を図るサッカー・コンサルタントとして活動し、各種サッカーメディアにおいても対談・コラム等を担当する。また、2014年4月よりスタートしたアーセナルSS市川代表を務める。専用の人工芝グランドはPFIを活用し建設され、新たなグランド作りのビジネスモデルとして注目されている。息子の志有人はJリーガーで、FC東京所属。

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