これまで上場に関して否定的な見解を示してきた明治安田生命保険と住友生命保険だが、ここに来て風向きが変わり始めた。背景には、業界を通じて今後加速すると見られる大規模なM&A合戦の動きと、そこに乗り遅れまいとする両社の焦りがある。文=ジャーナリスト/岡田哲也 写真=PIXTA

第一生命の躍進がもたらした影響

相互会社の明治安田生命保険、住友生命保険が上場に向けた準備に入ったとの見方が金融業界内で強まっている。早ければ2~3年後に上場するといわれており、得た資金を海外のM&A(合併・買収)に充てるとみられている。

日本生命保険が巨額の資金をM&Aに充てる方針を示したこと、さらには6月中旬に損害保険の国内最大手、東京海上ホールディングスが米保険大手のHCCインシュアランス・ホールディングスを約75億ドル(約9400億円)で買収を決めたことが、明安と住生の背中を押したとされる。

明安、住生ともこれまで上場については、「収益の還元先が契約者、株主の両面になるため、契約者を軽視することになる」(明安幹部)として否定的な見解を繰り返してきた。

また、両社とも大手金融機関としての地位を国内で着々と築いてきたことから、知名度、信用力が上場企業になることで大幅に増すわけでもない。年間数十億~数百億円の維持費用も掛かるため、メリットは薄いと判断してきた。

生保大手では第一生命保険が2010年に上場を果たし、株式会社化に踏み切った。手にした資金で米中堅生保プロテクティブを5800億円で買収し、今年2月に子会社化を果たすなど成功を収めているが、両社とも「目的が企業価値を高めることになっている。契約者配当も上場前の水準と変わらない。契約者に向いていない」と、第一に対しては冷ややかな目を向けてきた。

人口減少時代を迎え、じり貧といわれてきた国内保険市場だが、ここ最近は、介護や医療などの第3分野の商品が、主力の死亡保障を補う形で伸びていることも、国内保険業界で上場に向けた動きが第一以降進まない大きな理由だ。

明安、住生も含めた多くの国内生保は、「国内事業の浮き沈みを海外がいずれ補完すればいい」として、10~20年後に利益が見込める主に東南アジア、インドの保険会社へのマイノリティー出資に注力している。

ところが、第一が国内で薄利多売といわれる銀行窓販に力を入れる拡大路線を進めた結果、15年3月期に売上高に相当する保険料等収入で約1千億円の差をつけ、戦後初の首位の座を日生から奪ったことで、その風向きが変わったようだ。