ディーリングとは、既発債を売買する業務である。金融機関は単に自己保有分を売却するだけではなく、流通市場から国債を購入したり売却したりを短期の間に繰り返し、値鞘を狙うことができるようになった。そのため、1985年を境に、それ以前とそれ以降とでは国債売買高に明らかな差が見られるようになった(図表2)。
1985年、金融機関のフルディーリングが開始されて国債の売買が活発になると、一部の銘柄に売買が集中するようになった。ディーラー同士が売買して値鞘を稼ぐため、発行量が多く流動性の高い銘柄に取引が集中した。
このうち最も売買高の高い銘柄は「指標銘柄」と呼ばれ、割高に(金利が低く)取引されるようになった。そのため、この間(指標銘柄が存在する期間)のイールドカーブは、一部の銘柄のみ利回りが低くなることや、歪んだ形状になることが多かった(図表3-2)。
指標銘柄による取引は1999年まで続き、その後は10年長期国債で最も期間の長い銘柄(新規発行直後の銘柄)が指標的存在として扱われるようになった。取引が多様化し、指標銘柄以外の銘柄も流動性が高くなり、指標銘柄を特別扱いする必要性がなくなってきた。イールドカーブも1997年ごろからは指標銘柄が特別に低い利回りではなくなってきている(図表3-3)。
このように、1985~1996年ごろの流通市場は売買が活発になったものの、取引は一部の銘柄に集中し各銘柄はバラバラな動きをしていた。
1999年からは30年超長期国債が発行される。また、2003年からは20年超長期国債が毎月発行されるようになる。この頃から超長期国債が大量発行されるようになり、超長期国債の流動性も高くなる(図表2)。
超長期国債の流動性が高くなると、それまでバラバラだった超長期ゾーンのイールドカーブも、滑らかな曲線を画くようになる(図表3-4)。
その後、イールドカーブは比較的滑らかな状態が続くが、2008年9月のリーマン・ショック等を受け、日銀はそれまでの金融引締め(金利上昇)政策を変更し、金融緩和(金利低下)政策へと向かう。
この頃(2008年)からイールドカーブは10年以下ゾーンを中心に低下する、いわゆるS字イールドカーブが始まる。通常のイールドカーブは右肩上りで上に凸の曲線を画くが、S字イールドカーブの場合、10年超ゾーンは上に凸、10年以下ゾーンは下に凸の曲線を画き、ねじれる形状になる(図表3-5)。
短期ゾーンのニーズが極端に強くなることから、こういった形状になると考えられる。2013年以降は日銀が国債購入量を更に増やし金融緩和政策が強化されたことなどから、S字イールドカーブは現在も続いている。
以上の内容を簡単にまとめると、図表1-2のようになる。つまり、流動性が高く正常なイールドカーブが画かれていたと考えられる期間は1997~2007年ぐらいしかない。更に超長期債も含めて正常なイールドカーブが画かれていると考えられる期間は2003後半~2007年ごろのみとなる。
近年、超長期債マーケットが拡大してきており、イールドカーブを分析する際は超長期債も含めて分析する必要がある。そこで、以下では2003年9月以降のデータを活用したイールドカーブ分析の一例を紹介する。