消費増税や円安に伴う値上げなどが災いし、消費マインドが冷えこんでいる中で、小売り大手のイオンが2016年2月期の第1四半期決算を発表した。そこで明らかになったのは、喫緊の課題であるGMS(総合スーパー)改革の難しさだ。文=本誌/大和賢治
第1四半期が過去最高益!?
イオンが7月8日に2016年2月期第1四半期決算を発表した。前期の連結決算では、純利益が対前年比23%減という大幅減益に見舞われた同社だけに、今第1四半期決算は通期業績を占う重要な意味を持つ。
一部マスコミの報道から大方の業績は把握していたものの、蓋を開ければ営業収益が対前年同期比117・9%の2兆194億1700万円、営業利益は同155・4%の349億1300万円と第1四半期で過去最高益をたたきだす急回復を見せたことから、自力の強さをあらためて認識させられた。
消費増税後の消費マインドの冷え込みが顕著となる中では、一見、善戦と映るかもしれないが、セグメント別の数字をよくよく検証すると好業績を牽引しているのはウエルシアホールディングスが連結対象となったドラッグファーマシー事業やマックスバリュ北海道、マックスバリュ東海が主体となるSM(スーパーマーケット)・DS(ディスカウントストア)事業である。
言うまでもなくイオンの主力業態は課題山積のGMS事業。同事業が、本当の意味で立ち直りを見せなければ経営は盤石とは言えない。そこで数字だが、営業収益が対前年同期比97・5%の6628億1100万円と微減ではあるものの、営業損益に至っては47億円を計上した。
十数年にわたり、改革の本丸となっていたGMS事業ではあるが、数字上ではいまだ成果は上がっていないと言わざるを得ない。GMSは同社をはじめ大手スーパーの成長の基礎となった業態だが、消費が飽和する中で、専門店などの台頭も相まってGMSの大量生産・消費のモデルはもはや消費者に受け入れられなくなっている。
イオンはもちろん、競合のセブン&アイHDほか、大手スーパーでも複雑化する消費嗜好に対応したMD(商品政策)戦略の必要性は認識しているものの、旧型の事業モデルへの拘泥を打破できずにいるのが現状だ。
イオンにしても"ナロー&ディープ"を掲げ、数年前から専門店等に引けを取らないMD戦略に注力していた。しかし、実際は、地域特性を重視するなど個店主義に徹しきれず、GMSの業績低迷が常態化していた。
そこで、同社は昨年からGMS再生に本腰を入れ、店舗立地によりファミリー向けの「イオンスタイルストア」、シニアを意識した「イオングランドストア」など、顧客対象を絞り込む戦略を取る一方、遅まきながら地域カンパニーも導入、権限を移管することで、スピードを伴った改革に着手してきた。
だが、実際に成果が実感できるのは、GMSとしての再生を断念したダイエーの店舗が、食品特化型の「イオンフードスタイルストア」に転換したことなどに象徴される1階の食品部門だけだ。
GMS再生のカギはあくまで、2階以上の衣料、住居関連である。
「第1四半期ではイタリアンスーツやランドセルなど、価値ある商品を商圏のニーズに則して投入したことで改善が見られました。今後も専門店化を意識した強い集合体としてフロアを構成していきます。並行してお客さまの買い回りを意識した店舗改装にも着手したことで手ごたえを感じています。これら施策がGMS再生の軸にはなりますが、衣料や住居関連はリードタイムが長いので、われわれの目指すところまで行っていません」(イオン広報)
とはいえ、GMSの再生策は死屍累々の歴史。成功したと発表した多くの施策は、一過性にすぎなかったことが後に判明する。未来永劫とは言い過ぎかもしれないが、イオンは"食品頼み"という構図から抜け出せないのではないか。
「トップバリュ」の売り上げに陰り
では、食品が盤石かと言うとそうとも言い切れない。そこで注目したいのが、同社が長期間にわたり強化してきたプライベートブランド(PB)「トップバリュ」の動向だ。前期に6千SKU(単品で在庫管理する単位)まで拡大した「トップバリュ」だが、ここへ来て売り上げに陰りが見えてきている。背景にあるのが、「トップバリュ」の信頼性。
同シリーズは、他の大手PBとは違い、販売者と製造者を併記する「ダブルチョップ」を採用していない。現行の食品表示法では製造所固有記号(数字やアルファベット)を表記すれば良いということになっている。消費者が製造者を知りたければ企業ホームページから検索しなければならない。
ダブルチョップであれば、消費者は手に取るだけで製造者を認識できるが、「トップバリュ」の場合は、実際問題として売り場で製造者を確認することは不可能に近い。
世界的に食の安心・安全が叫ばれる中で、製造者を認識できない商品は厳しい立場に追い込まれるのが必然だ。
今やダブルチョップは社会の要請でもある以上、同社の「トップバリュ」も何らかの対応を迫られることになるであろう。
いずれにしろ、同社にとってもGMSの再生は不可避。中間決算時、どの程度、改革の成果が出ているかあらためて検証しなければならない。
(この記事は8月3日号「 経済界 」に掲載されたものです。)