◆インバウンド消費のインパクト

円安の進行、ビザの発給要件緩和、消費税免税制度拡充を背景とした訪日外国人旅行者数の急増が続いている。2014年の訪日外国人旅行者数は前年比29.4%増の1,341万人となり、この3年間で2.2倍となった。

2014年10月に免税対象から外れていた食品、化粧品、薬品等の消耗品も含め全ての品目が免税対象となったこともあり、2015年上期の訪日外国人旅行者数は前年比46.0%とさらに伸びが加速している。

当研究所が毎月の訪日外国人旅行者数に季節調整をかけたところ、2015年4-6月期は年率換算値で2,003万人となった。東京オリンピックが開催される2020年までに年間2,000万人としていた政府目標を瞬間風速ではすでに上回ったことになる。

訪日外国人旅行者数は政府目標の年間2000万人へ

訪日外国人旅行者数の急増は小売業、宿泊業、旅行業などに大きな恩恵をもたらしている。日本百貨店協会によれば、外国人観光客の売上高は2014年10月から2015年1月までが前年比100%台、2015年2月から5月までが同200%台、6月が同300%台と伸びが急加速している。これに伴い百貨店売上高に占める割合も急上昇しており、2015年4-6月期には3.6%となった(*2)。

ただし、その一方で外国人(非居住者)の日本国内における消費額(*3)が国内の消費額全体に占める割合は1%以下、GDP比では0.5%程度にとどまっている。また、外国人観光客向けの売上高が急増しているにもかかわらず百貨店売上高全体は低調な推移が続いている。

2015年4-6月期の売上高は前年比6.0%と消費増税後で初めて増加となったが、これは前年同期が駆け込み需要の反動で前年比▲7.5%と急速に落ち込んだ反動による部分が大きく、売上高は消費税率引き上げ前の2年前の水準を下回っている。

訪日外国人旅行者数の急増が一部の業界に大きな恩恵をもたらしていることは確かだが、国内の景気全般に与える影響は現時点では限定的にとどまっている。

インバウンド消費の割合

インバウンド消費の主役は中国だ。中国からの旅行者数は台湾、韓国に次ぐ第3位(2014年実績)だが、購入単価が高いため日本から見た旅行収支の受取額は中国が最も多く、全体の3割以上を占めている。一方、中国との経済取引全体からみると旅行収支の割合はそれほど大きなものではなく、圧倒的に大きいのはやはり貿易取引だ。

一時、中国は日本の最大の貿易相手国となっていたが、最近は中国経済の成長率鈍化に伴い中国向けの輸出割合は低下傾向にあり、2014年度は16%と米国に次ぐ第2位となっている。それでも中国向けの輸出額は中国からの旅行収支の受取額の17.5倍となっており、日本経済への影響を考える上では貿易取引の動向がより重要である。

中国との経済取引の内訳(2014年度)

中国向けの輸出数量は2014年後半から減少傾向が続いている。2015年4-6月期の中国の実質GDP成長率は前年比7.0%と1-3月期と同じ伸びを確保したが、足もとの景気の実勢は経済成長率が示す以上に減速している可能性が高い。

たとえば、経済活動の動向を反映しやすい電力生産量は2015年初め頃を底に持ち直しつつあったが、7月には前年比▲2.0%と再び前年割れとなった。中国の電力生産は日本の中国向け輸出数量との連動性が高いため、中国向け輸出の低迷はしばらく続く可能性が高い。

中国向け輸出数量と中国の電力生産