8月19日午前、バンコクの大型免税店「キング・パワー」の前には装甲車が停まり、軍人が7〜8人監視に立っていた。免税店の出入り口では、手荷物の検査が実施されている。2013〜14年の反政府デモの時でさえ、このような光景は見られなかった。

その2日前、17日の午後7時前にタイ人、外国人観光客にも有名なバンコクの中心部にある「エラワン廟」で爆弾が爆発し、死者20人(うち11人がアジアからの外国人)、負傷者125人という惨事が起こった。犯行目的、犯行組織、実行犯など未だ不明な点が多い。タイ警察は、19日に国際刑事警察機構(ICPO)に捜査協力を要請している。

中国人観光客を狙った犯行という説が一時流れ、中国人観光客の多くが訪れる「キング・パワー」は厳重な警戒となった。バンコク以外でも、外国人観光客に人気のあるアユタヤ、パタヤ、プーケット島、チェンマイなどでも警戒が厳重となっている。

事件翌日の18日午前、事件現場を訪れると、道路が封鎖され、散水車と清掃人が道路を洗い流していた。前日の惨事は、道路脇に僅かに残っているガラス破片とペットボトルくらいだった。爆発による道路の陥没を確認しようとしたが、現場には近寄ることが出来なかった。通常は、周辺の歩道には露天、屋台が連なっているが、この日は出ていない。大型ショッピング・モール「セントラル・ワールド」は営業をしているが、人はまばらだった。

同日、チャオプラヤー川を行き交う公共機関「エクスプレス・ボート」の乗り場として有名なサトン船着場で、爆弾が水中に落ちて爆発するという事件が発生した。負傷者はなかった。この船着場は、高架電車BTSサパーン・タクシン駅から直結している利便性や、渋滞なしに王宮周辺に行けることで、外国人観光客に人気がある所である。

爆発事件が起きる前日の16日は、王妃の誕生日を祝い、サイクリング大会が行われ、皇太子を先頭に多くの人が参加し、バンコクは祭り一色だったが、一転暗いムードに包まれた。

タイ警察は、連続して発生した2件の爆発事件は関連がある可能性が高いと判断している。犯人については、

・タイ軍事政権と対立するタクシン元首相派(2010年の赤シャツ、黄シャツの対立では、死者91人、負傷者は1400人以上にのぼる。未だ事件の詳細は明らかとなっていない)

・マレーシア国境のタイ深南部でタイ当局と武装闘争を続けるマレー系イスラム武装勢力(マレーシアに隣接する4県で、2001年から無差別テロが頻繁に生じている。犯行声明はなく、攻撃目的も明確ではない。そのため、警察だけでなく、軍が治安維持のため常駐している)

・国際テロ組織

など、捜査対象は幅広い。

一方、ウイグル族に関連する国際テロ組織よる報復との見方は否定した。

タイ政府は、今年7月中国新疆ウイグル自治区からタイに密入国したウイグル族109人を中国に強制送還した。ウイグル族の多くはイスラム教徒で、中国政府による弾圧を逃れ、東南アジアなどに脱出するケースが増えている。タイ政府が中国に強制送還した翌日には、送還に抗議するトルコ人のデモ隊がイスタンブールのタイ領事館に突入し、窓ガラスを割ったり、備品を壊すなどしている。

軍事政権の最高機関である国家平和秩序評議会は、国内の組織による犯行と発表しており、犯人像は絞られていないのが現状である。

19日に公開された実行犯と思われる男性は、既に出国したと思われている。バンコクからカンボジア国境まで、車で2〜3時間で行ける。

2件の爆発事件は、タイ経済、特に観光業界に大きな影響を与える。

爆発事件が起こる前に、タイ国家経済社会開発庁は、2015年の国内総生産(GDP)成長率の見通しを3〜4%から2.7〜3.7%に引き下げたばかりだった。爆発事件で、経済成長率がさらに下がるのは避けられないだろう。

輸出面で見ると、今年に入り、毎月前年比マイナスを続けており、6月はマイナス7.9%となった。その中で好調なのが、GDPの約10%を占める観光業であった。

米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、「今回の爆発事件はこの10年間に起きた過去の事件と比べより長期にわたって観光客数に影響を及ぼす可能性がある」との見方を示している。

また、観光関連株は過去最大の下げとなり、通貨バーツは2009年4月以来の安値に接近している。経済成長を下支えするため、年内の金利引き下げ、バーツ安の容認といった観測が強い。

この2件の爆弾事件に関して、バンコク日本人商工会議所が18日、会員企業(1639社)を対象にアンケート調査を実施した(回答企業656社)。

「従業員が事件に巻き込まれた」との回答は2社、「自社のビジネスに影響が出た」は67社、「影響は出ていない」は586社となった。

「影響」の例としては、取引先との会合のキャンセル、国際会議の中止、出張者の渡航見合わせ、自宅待機など。

この事件で「特別な対応を取った」は69社、「取っていない」は587社で、「対応」の内容は残業禁止、国外からの渡航自粛、家族の一時帰国などとなっている。

また、28〜30日に「セントラル・ワールド」で開催予定だった、民間主催の日本文化紹介イベント「ジャパン・エキスポ・タイランド2015」の中止が決まった。このイベントには、AKB48の出演が予定されていた。


福間鋼治(ふくまこうじ) 1960年島根県出雲市生まれ。大学卒業後、出版社で記者・編集者として、財務省、国税庁、国会などの記者クラブに所属し、取材活動を行う。 1989年渡米し、上院議員選挙や、日系自動車メーカー・自動車部品メーカーなどの取材を行い、「AERA」「エコノミスト」などに投稿する。 帰国後は、フリーランスのジャーナリストして活動する一方、「AERA Mook」などの編集責任者として、企画・編集活動を行っていた。2011年12月からバンコク在住。

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