高い期待感を現実のものとするために

前述のとおり、「平成27年版情報通信白書」のアンケート調査では、介護ロボットに対する社会の高い期待感が醸成されていることが示されている。

この期待感に応えるためには、過去のレポートで触れているとおり、第一義的に、国等の継続的な政策支援や開発側の機器改良や改善に対する積極的かつ継続的な取組が必要不可欠である。加えて、社会全体に、介護ロボットの活用によってどのようなことが可能となるのか、またユーザビリティ(使い勝手)を向上させていくためにはユーザーの力が必要とされる点などについて理解、認識してもらうことも重要な課題である。

なぜならば、現在登場しつつある介護ロボットは、ともすれば、高機能で介護現場に導入すれば直ぐにでも活用開始できる介護ロボットばかりではないと筆者は考えているからである。勿論、導入当初からユーザーの期待に応える活躍をする介護ロボットもあろう。しかし、大多数の工業製品は長い時間をかけて改良が継続されて完成度が高められる。

今後登場する新しい分野のロボットである介護ロボットも基本的には同様であり、介護現場で活用されつつ、開発側と活用側の協働による改良が継続されることによって、さらには、そこに技術革新の進展も加わって、「使える」介護ロボットが生み出されてこよう。

様々な介護ロボットが本格的に登場する時期を迎えるにあたって、機器の効果的な活用方法やこのような開発側と活用側の協働による継続的な開発や改良の重要性の社会全体への啓発・啓蒙が必要不可欠となっている。


おわりに

社会全体への介護ロボットの普及啓発には、目的とする介助の種類(介護ロボットの機能)に応じて、「介護ロボット」という言葉の細分化も重要であろう。介護・介助の種類によっては介護ロボット開発の難易度が高いものも存在する。

難易度の高い分野の介護ロボットがユーザーの高い期待に充分に応えられなかった際に、「介護ロボットはまだまだ」といった評価が定着すると、その後の他の介護ロボットの開発・普及にも影響が及ぶのではないだろうか。

そのような事態を避ける上でも、「○○介助用の介護ロボット」や「□□介助用の介護ロボット」といった、細分化された目的別の介護ロボットの名称、分類名が普及することが是非とも必要である。極めて多様な機器群を内包する「介護ロボット」というロボットの大分類の名称からの"卒業"も重要な課題の一つではないだろうか。

(*1)基となるアンケート調査名は、総務省「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」(平成27年、調査時期3月)であり、「パートナーロボット」に関する意識調査結果は本編のP191~198に記載。同調査概要は巻末「付注」のP497に掲載されている。

<参考資料・レポート等>
◆政府及び行政などの公表資料
・総務省「平成27年版情報通信白書(ICT白書)ICTの過去・現在・未来」(2015年7月28日)
・「『日本再興戦略』改定2015?未来への投資・生産性革命-」(平成27年6月30日閣議決定)
・日本経済再生本部「ロボット新戦略(Japan’sRobotStrategy)-ビジョン・戦略・アクションプラン-」(2015年2月10日)
◆ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート(Web版)」(以下の「基礎研レポート」、「研究員の眼」は「執筆一覧」を参照)
・「社会で広く理解を深めることが重要な介護ロボット-紹介されたロボット介護機器の3機種-」(2015年6月30日)
・「介護ロボット開発・普及の現在位置と今後への視点-“ロボット介護”の開発と新たな開発・普及サイクルの構築-」(2015年4月30日)
・「『ロボット新戦略』における介護分野のアクションプランの要点-介護保険と地域医療介護総合確保基金による新たな普及方策-」(2015年3月30日)
・「本格化するサービス分野でのロボット開発-介護ロボット開発動向からサービスロボットへの示唆-」(2014年12月26日)
・「介護ロボット開発の進展と今後の開発への示唆?複数の展示会で注目を集める様々なロボット-」(2014年11月28日)
・「『再興戦略改訂』に組み込まれた『ロボット革命』の実現-『社会的な課題解決』へ向けた『5カ年計画』策定に注目-」(2014年9月30日)
・「ロボット介護機器に対する2年度目の開発支援事業が始動?経済産業省2014年度事業概要と今後の開発への期待-」(2014年7月29日)
・「『ロボット介護推進プロジェクト』が目指す開発・普及の土壌の醸成?開発支援の現在位置と『ロボット介護』普及への布石-」(2014年6月30日)
・「重要性増す在宅での自立を支援する機器開発-拡充されたロボット介護機器(介護ロボット)の『重点分野』」(2014年4月22日)
・「新たな福祉用具等への介護保険適用の検討始まる?開始された介護ロボット等の登場へ向けての準備-」(2014年2月21日)
・「介護ロボットの『モニター調査(実証試験等)』が本格化-『要』となる厚生労働省・テクノエイド協会の実用化支援事業-」(2013年12月30日)
・「福祉用具から介護ロボット、住宅機器まで多彩な機器群が新たに登場-第40回『国際福祉機器展(H.C.R.2013)』から-」(2013年11月7日)
・「進展が期待されるロボット介護機器(介護ロボット)開発-『重点分野』の開発補助事業48件が出揃う-」(2013年9月6日)
・「ロボット介護機器の開発動向-『重点分野』の1次採択事業の具体的開発事例-」(2013年8月9日)
・「『日本再興戦略』に盛り込まれたロボット開発への期待」(2013年7月19日)
・「本格化する『重点分野』の介護ロボット開発支援」(2013年5月23日)
・「介護ロボット開発の方向性とイノベーションへの期待」(2012年12月25日)
・ニッセイ基礎研REPORT(冊子版)2012年2月号「介護分野へ接近を始めた多様なロボット」
◆ニッセイ基礎研究所「研究員の眼(Web版)」
・「超高齢社会の生活者を支援する介護ロボット」(2013年11月27日)
・「本格化する『ロボット介護機器』の開発支援」(2013年4月5日)
・「介護ロボットだけではない『介護ロボット』」(2013年3月21日)
・「幅広い分野で技術革新が進展する福祉機器」(2012年10月4日)
・「介護ロボットは普及するか」(2012年6月28日)

青山 正治
ニッセイ基礎研究所 社会研究部 准主任研究員

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