為替:円高リスクをどう見るべきか

為替相場が変調をきたしている。先月半ばに124円台で推移していたドル円レートは、24日の米市場で一時116円台にまで円高が進行。以降はやや戻したものの戻りは鈍く、足元も119円台に留まっている。

◆円急騰のメカニズム

今回の円高の直接かつ最大の要因は中国不安だ。中国の経済ならびに株価下落に対する不安が高まり、中国株の急落を通じて世界同時株安に波及した。また、伏線として、もともと米国の利上げ観測によって高まっていた新興国不安(具体的には資金流出とその影響による景気への不安)が中国不安によって増幅され、世界株の下落に作用した面もある。

円急騰のメカニズム

シカゴ投機筋の円売りポジションとドル円

市場のリスク回避姿勢が強まる局面において、従来から(ドルに対して)円は買われる構造にある。俗に言う「リスク回避の円買い」なのだが、その理由を整理すると、以下の通りとなる。

1.リスク回避に伴う債券選好によって、米国の金利が低下する一方、日本の金利はもともと極めて低位であるため低下余地が小さく、結果として日米金利差が縮小、ドルに対する円の相対的な魅力が高まってしまう。

2.円は円キャリー取引(低金利の円を借りて市場で売り、高金利通貨などを買う取引)などで平時には売りポジションが溜まっているが、リスク回避時にはその取引が解消され、円の買い戻しが発生する。

3.これまで、「リスク回避姿勢が強まる局面で円が上昇する」という経験が繰り返されてきたことで、「リスク回避地合いで円を買う」ことが正当化され、条件反射的もしくは意図的に円が買われる。

今回の中国発世界同時株安では、市場のリスク回避度が急激に高まった。米市場の恐怖心理を示すとされる「VIX指数(恐怖指数)」は、一時40を突破し、リーマン・ショックには及ばないものの、2010年のギリシャ・ショック並みにまで急上昇。その結果、円も急上昇した。さらに、世界の金融市場が混乱したことで、米国の利上げ観測が後退したことも円高ドル安に働いた。

米金利先物市場が織り込む利上げ予想を見ると、8月上旬には9月利上げ観測が5割弱、年内利上げ観測(年内のどこかで利上げが行われる確率)が7割強であったが、市場の緊迫感が最高潮に達した8月下旬にはそれぞれ、2割強、5割弱にまで低下。足元ではやや回復しているが、元の水準までは戻っていない。

ドル円レートとVIX指数

なお、6月下旬から7月上旬にかけても中国の株価が急落し、市場のリスク回避姿勢が高まったことで円が買われたが、120円台までで止まり、その後は中国当局の株価下支えなどで一旦市場が落ち着きを取り戻したことで、124円台までの回復を見せていた(表紙図表参照)。

しかし、その後に人民元切り下げ、天津爆発事故、7月の経済統計悪化、8月の景況感悪化といった悪材料が立て続けに出てきたことで、市場の中国経済、政策運営能力に対する不安が前回の株価下落局面よりも増幅され、世界経済への悪影響波及が強く意識された。このことが、8月下旬の円上昇幅が大きく、その後もなかなか回復しない理由と考えられる。