日銀金融政策(8月):強気維持だが、目標達成が若干前後する可能性に言及
◆(日銀)現状維持
日銀は8月6~7日にかけて開催した金融政策決定会合において、現行の金融政策を維持した(賛成8反対1)。引き続きマネタリーベースが年間約80兆円に相当するペースで増加するよう、長期国債・ETF等の資産買入れを継続する。なお、議案に反対した木内委員はこれまで同様、マネタリーベースならびに長期国債が45兆円ペースで増加するよう資産買入れを行うべきと主張したが、反対多数で否決された。
声明文における景気判断は、「緩やかな回復を続けている」と、前回の表現を据え置いた。声明文における景気判断も総じて7月と同様であったが、住宅投資の評価を「持ち直している」と前回の「持ち直しつつある」から上方修正した。また、景気と物価の先行きについても、それぞれ「緩やかな回復を続けていく」、「当面0%程度で推移する」とし、前回からの変更は無かった。
なお、7日には同時に来年の金融政策決定会合日程が公表された。先般発表されているとおり、来年から会合の回数が8回(現行は14回)となる。日銀の会合は既に公表されているFRBの会合(FOMC)日程と極めて近い日に設定されており、総裁は会見で否定したが、FOMCの日程を強く意識した設定であることがうかがわれる。
さらに、どちらかと言えばFOMCの直後に設定されている月が多いことから、来年に利上げを続けるとみられる米金融政策を受けて、柔軟に対応しやすい日程と言える。
会合後の黒田総裁会見では、前回同様、最近の輸出と生産の鈍化について「一時的なものと考えている」とし、今後は海外経済の回復などから、ともに「振れを伴いつつも、緩やかに増加していく」との見通しを示した。中国経済に関しては鈍化を認めつつも、「先進国経済回復の好影響が波及する」と楽観的な見方を示している。
停滞感が出ている個人消費に関しても、「天候要因などによって、一部にもたつきが見られた」、「底堅く推移していることに変わりは無い」とし、他の懸念材料同様、強気を維持した。一方、物価目標達成期限については、2016年度前半頃との従来の見方を存置する一方で、原油価格の動向次第では、「若干前後することはあり得る」と曖昧化。最近の原油価格下落を受けた対応とみられる。
なお、黒田総裁は、前回追加緩和を決定した昨年10月末と最近の物価を巡る環境の違いに関して、現在は「物価上昇予想が比較的維持されていること」、「原油価格の下落が限定的であること」、「2年続きのベアが実現し雇用・所得環境が改善、GDPギャップが縮んでいること」の3点を挙げた。
逆に言えば、この3点が変調をきたしたとき、追加緩和の可能性が高まると言えそうだ。筆者は今のところ、前月の同レポートで述べたとおり、来年1月の追加緩和を予想している。
その後、中国経済への不安が増幅し、世界同時株安が発生したが、黒田総裁は、26日にNYで行われた講演において、「中国経済は今年・来年は6~7%成長は可能」「市場は過度に悲観的になりすぎている」という趣旨の発言をしたと報じられている。日銀の強気スタンスは揺ぎない。
政策金利1の先行きに対する市場の見方を示すOIS(一定期間の無担保コール翌日物と固定金利を交換する金利スワップ)の8月末時点における利回り曲線を見ると、日本とユーロ圏については前月末から殆ど変化なし。利回り曲線もほぼフラットの形状を維持しており、少なくとも2年以内の利上げは織り込まれていない。
なお、米国の利回り曲線は、6ヶ月までの短期ゾーンにおいて上方シフトがみられる。9月の利上げ観測が大きく高まったというよりは、もともと多少なりとも利上げが織り込まれていた9月が接近したことによって、短期ゾーンが押し上げられた形。長期ゾーンの水準感には大きな動きはない。