◆円安シナリオは不変だが、一時的な円高リスクは高まった

今回の事象は言わば中国ショックと言えるが、このショックはドル円相場のシナリオにどのような影響を与えるのであろうか。

まず、当面円安が進みにくくなったものの、今後の円安ドル高シナリオ自体は不変だと筆者は考えている。なぜなら米国が遠からず利上げに向かう可能性が引き続き極めて高いためだ。もちろん、米国経済も中国の影響を受けないわけではないが、米国の中国向け輸出がGDPに占める割合は相対的に低いため、影響は限られるだろう。

利上げが控えている(と信じられている)限り、投資家が積極的に円買いドル売りを仕掛けるのは難しい。米利上げは12月と見ているが、再び利上げ観測が高まるにつれて、緩やかな円安ドル高になるというのがメインシナリオだ。

主要国の中国向け輸出依存度

一方、現時点で可能性は低いが、仮に今後円高が進み、そのまま定着するというシナリオがあるとすれば、中国情勢が世界に甚大な悪影響を及ぼし、米国の利上げが見通せなくなるときだ。この際は、既に市場で一部織り込まれている利上げ期待が剥落することで円高ドル安となる。

この際のドル円への影響度を、米2年国債利回りをもとに試算してみよう。米2年国債利回りは、これまで利上げを徐々に織り込む形で0.7%付近までじわりと上昇してきた。足元こそショックでやや乖離しているが、もともと、同利回りとドル円レートにはかなりの正の相関(相関係数は1で完全連動を示す)が確認できる(15年の両者の相関係数は0.70)。

そこで、ドル円レートを目的変数、米2年国債利回りを説明変数として単回帰分析を行うと(対象期間は2015年1月1日~9月3日)、以下の式が導かれる。

ドル円レート=107.31+22.52×米2年国債利回り(決定係数R2=0.49)

つまり、米2年国債利回りが1%低下すると、ドル円レートは22.52円円高ドル安になるという関係性だ。従って、現在0.7%付近にある米2年国債利回りが、利上げがほぼ織り込まれていない時期、例えば米量的緩和第3弾終了時(2014年10月平均)の0.4%程度まで0.3%低下するとした場合でも、ドル円レートの下落幅は6.8円に留まる。

あくまで、米2年国債利回りのみをもとにした荒い試算だが、現実問題としても、円高が定着しそうになれば、日銀の追加緩和観測が高まることで円の上昇は抑えられるはず。従って、仮に米利上げ観測が消滅したとしても、米国が量的緩和第4弾に向かうようなことがない限り、110円を超えるような円高が定着する可能性は低いだろう。

ただし、一時的に大きく円高に振れるリスクは従来よりも高まっており、今後も注意が必要な状況がしばらく続くだろう。市場の混乱の最大の要因である中国不安の解消のためには、根本にある中国経済に下げ止まりの兆しが出ることが重要になるが、当面は期待しづらいためだ。

市場の不安が高まりやすいということは、リスク回避の円買いが起こりやすいということだ。最近はアルゴリズム取引(高速取引)によって市場の変動が増幅しやすいだけに、定着こそしないものの、中国経済指標の下振れなどを材料として、24日の円急伸劇のような事態が再び起こる可能性はある。