(写真=PIXTA)

全国で高級リゾート施設を展開してきた星野リゾートが、シティホテル「ANAクラウンプラザホテル」の4施設を買収する。同社はこれまでリゾート型の高級ホテルや旅館を中心に事業を進めてきたが、新ビジネスに参入する真の狙いとは。(文=ジャーナリスト/木下雄二)

観光客需要への対応で星野代表が抱く危機感

星野リゾートが買収するのは、世界最大のホテルチェーンである英インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ(IHG)と、ANAホールディングスの共同出資会社、IHG・ANA・ホテルズグループジャパンが展開する4つのANAクラウンプラザホテル(金沢、富山、広島、福岡)。取得額は400億円弱で同社としては「最大規模の投資」(広報)である。

米金融大手モルガン・スタンレー子会社の投資ファンドから経営権を取得し、運営は従来通りIHG・ANA・ホテルズが続ける。ホテルの名称も現時点では変更しないという。

ANAクラウンプラザホテルは旧全日空ホテルが多く、4月時点で全国17カ所に展開している。ANAが航空事業に経営資源を集中させるため、一部ホテルの不動産や経営権を売却。IHGとの合弁会社も設立してきた。

一方で、今回の買収対象となるこれらのホテルは、これまで星野リゾートが展開してきた事業とは一線を画している。同社が運営している高級ホテル「星のや」やリゾートホテル「リゾナーレ」、高級旅館「界」は、手厚いサービスや非日常的な空間を提供することを売り物にしており、価格帯もかなり高級な部類にあった。それがなぜシティホテルなのか。

「数年前から地方都市でホテル事業の構想があった。ファンドが売りに出すという話を聞き、これはチャンスだと考えた」

同社が買収を発表した7月27日、星野佳路代表は渡航先のニュージーランドからネット回線を通じてメディア各社の取材に応じ、その狙いを語った。

今回買収するホテルはいずれもターミナル駅からほど近く、観光、ビジネスの両方で使えるホテルだ。しかも、数十室程度の星のやなどと違い、客室数が非常に多く、金沢が249室、富山が251室、広島が409室、福岡が320室に上る。何よりも価格帯は6万円台の星のやに対して、クラウンプラザホテルは1万円台だ。

だが、そこには星野代表が抱える危機感があった。

「観光客が温泉旅館から都市部のホテルにシフトしている」、「シティホテルに来る観光客を外せなくなった」、「子ども連れは高級旅館を敬遠する」といった言葉にその気持ちがにじみ出ている。

観光庁の調査によると、2014年の全国の宿泊施設のタイプ別稼働率は、シティホテルが77・3%、ビジネスホテルが72・1だったのに対して、旅館は35・2%にとどまった。しかも、この傾向は加速しているという。

特に、星野リゾートの調査によると、地方都市のビジネスホテルは宿泊者の半分強が観光客だったことが分かったという。地方都市のホテルは交通の便が良く、価格も手ごろなため、手軽に観光が楽しめる。

しかも、旅館の豪華な食事より、街の居酒屋やラーメン屋に入りたいというニーズも増えている。地方のシティホテルやビジネスホテルは、そうしたニーズのあるファミリー層や訪日外国人らを取り込むことによって、収益向上につなげていたというわけだ。