◆タイの有力企業の国際展開

タイの有力企業は、図表-8の有力企業グループリスト(*8)のように、国営・国有企業(PTT(タイ石油公社がその典型例)、民族系(タイ地場企業)、華人系企業等に大別できる。本項では、民族系企業の代表であるサイアム・セメント・グループ(SCG)、華人系企業を代表するCPグループとセントラル・グループ、の3社(グループ)を取り上げる。

図表-8 タイの15大企業グループ

サイアム・セメント・グループ (SCG)(*9):アセアン地域に重点をおいた国際展開

1913年に、国王ラマ6世の命によって創立された同国を代表する民族系企業であり、王室財産管理局(CrownPropertyBureau)が30%を占める大株主となっている。

2014年の業況は、売上高4,876億バーツ、純利益338億バーツ、総資産4,658億バーツ、従業員約5.1万人となっている。発祥はセメント会社とはいえ、現在、事業は石油化学、建設資材、製紙などに多角化している。また、業績や経営情報の積極的な開示、社会的貢献といった点の先進性でも高く評価されている。

人材の育成に注力する企業としても知られ、経営陣(執行役員)が全員専門経営者であり、全員が修士号を保有し、米ハーバード・ビジネス・スクールへの留学経験を有することも特徴的である(*10)。

その国際展開は、「アセアンにおける揺るぎないビジネス・リーダーになる」という目標(*11)を掲げ、アセアン域内での事業の拡大や、付加価値の大きな製品の構成比を増やすことを目指している。アセアン諸国をメインに進出するというのがこの会社の国際展開の特徴である。特に市場規模の大きいインドネシア、さらにベトナム、CLM諸国へ積極的に進出している。

直近の4年間で、約60件のM&Aにより多くの企業を傘下に収めている。その典型例は、2011年のインドネシア石化最大手チャンドラ・アスリ・ペトロケミカルへの3割出資、紙・パ・建材でも、ベトナムのタイル最大手プライム・グループの買収、べトナムでの石化コンビナートの巨大事業の主導などである。

同社のアセアン事業には、タイからアセアンに輸出する製品とアセアン所在の拠点で製造・販売している製品があり、2015年第1四半期の売上高は、アセアン(除タイ)での輸出と現地製造・販売額のシェアが22%となっている。また、アセアン(同)における資産残高は260億バーツと全社の18%になっている。アセアン地域における今後の5年間の投資予算は、最大2500億バーツとしており、その過半をタイ以外のアセアンに投じる計画である。

このような中で、同社が、現在不足していると感じている経営資源が、日本の多国籍企業と同様に、グローバル人材である。M&A手法を活用し企業や事業を獲得することはできるが、その後にうまく経営できるかどうかは別の問題だと認識し、タイ人の人材育成と同時に、有能なローカルスタッフの活用(*12)について大胆な取り組みを行っている。