アセアン企業による国際展開の動向

上記2により、アセアン各国やその企業が対外投資やM&A(アセアン域内向けを含む)を増加させている状況を概観した。それを踏まえて、本項では、先ず、投資やM&Aの担い手たる有力プレーヤーについて見る。その上で、その代表例として、タイの典型的な有力企業3社の国際展開に関する戦略、企業行動を考察することとする。

◆アセアンの有力企業の概況

代表的な企業のリスト(*4)である、フォーブス・グローバル2000(2015年版)の世界の2000大企業リスト(*5)におけるアセアン企業は合計70社である。また、「ASEANINVESTMENTREPORT2013-2014」には、株価時価総額ベースでの50大企業リストが掲載されている。

図表-6 アセアンの大企業

それぞれのリストに記載の企業の国別数は、図表-6のとおりとなっている。「ASEANINVESTMENTREPORT2013-2014」の50大企業の具体的な企業名(本拠国)と規模等は、図表-7のとおりである。アセアンにおける有力企業リストを見ると以下のような特徴が指摘できよう(*6)。

図表-7 アセアンの50大企業

(1)自動車、電気・電子などの大規模製造業が少ない。
(2)銀行、資源・エネルギー、インフラ(通信・電力・航空など)が多い。
(3)国営・国有企業が多い。
(4)(特に華人系)ファミリー系企業が多い(*7)。

以下タイの3企業を事例とした分析を行うが、それら3社も含めて、アセアンやアジアの企業を分析する上での視点や問題点として次の点を挙げたい。

(i)上記リスト記載の各上場企業は、大きな企業グループの一部(後で事例として取り上げるタイのCPグループで上場企業は3社のみ、セントラルグループは1社のみで、グループ全体の持株会社はいずれも非上場企業)であることが多い。その場合、個社のみの考察では不十分で、企業グループ単位での分析によって全体像を把握する必要がある(しかしながら、上場企業以外は公表情報が少ないためにグループの全体像や実態が分かりにくい)。

(ii)M&A事例の考察に当たって、10億ドル以上の規模の案件しかUNCTADなどの情報で開示されないため、それ以下の規模の案件を網羅することが難しい。また、第三国の拠点を通じた買収・出資の情報把握が難しいという点もある。

したがって、企業グループの全体像に迫るには、企業開示情報に加えて、経営者へのインタビュー記事を含めた新聞・雑誌報道、先行研究などを総合的に見ることが必要となり、以下本稿でもそのアプローチを行う。