その他注目点:家計の資金余剰が減少、日銀の国債保有高が預金取扱機関を逆転

15年4-6月期の資金過不足を主要部門別にみると、家計部門が例年同様、資金余剰となったほか、企業部門が前年の資金不足から資金余剰主体へと転じており、この両者の資金余剰で政府の資金不足を賄い、残りが海外へと流れている構図にある。ただし、家計部門の資金余剰は16.7兆円と、例年の25兆円弱から大きく縮小している。

資金を取り崩して生活する高齢者の増加が一因となっている可能性はあるが、一年で状況が大きく変わるとは考えにくい。住宅投資の底入れや、値上げの広がりによる家計から企業への所得移転が影響した可能性はあるが、主因を特定することは難しい。この動きが一時的なものなのか否か、フォローする必要がある(図表9)。

また、6月末の民間非金融法人のバランスシートを見ると、現預金残高は243.5兆円と、3月末(243.4兆円)からほぼ横ばいとなったが、過去最高をわずかに更新。一方、負債サイドの借入金は4兆円減少したため、結果として、純借入金残高(借入金-現預金、99兆円)は4兆円減少している。

例年、4-6月期には借入金が数兆円減少する傾向があるものの、同時に(返済によって)現預金も減る傾向があるが、今回は現預金がわずかに増えている点が特長。積み上がった現預金を前向きな資金として積極的に取り崩す動きはまだ見えない(図表10)。

ただし、企業の対外直接投資(フロー)は、本来であれば逆風となる円安下にもかかわらず、投資超過を続けている(図表11)。

現地生産の流れや活発な海外M&Aなどから、企業による海外投資の拡大基調は続いている。国庫短期証券を含む国債の6月末残高は1037兆円と、過去最高であった3月末(1038兆円)から1兆円減少した。前年比では27兆円の増加となる。

資金循環統計 図9-12

国債の保有状況を見ると、従来同様、預金取扱機関(銀行など)の保有高が減少(273兆円、3月末比14兆円減)する一方で、異次元緩和で国債の大量買入れを継続している日銀の保有高が大きく増加(295兆円、3月末比21兆円増)し、ついに日銀の保有高が預金取扱機関を上回った。

全体に占める日銀の保有シェアも28.5%(3月末は26.5%)にまで上昇している。日銀は今後も異次元緩和を継続するため、日銀の存在感(シェア)は高まっていく。

また、海外部門の国債保有高は、今回5四半期ぶりに減少した。6月末残高は95兆円、そのシェアは9.2%と、それぞれ過去最高であった3月末(残高98兆円、シェア9.4%)を下回った。ただし、水準自体は過去との対比で未だ高いことから、海外勢の根強い日本国債需要がうかがわれる(図表12)。

(*1)2015年1-3月期の計数は確報化に伴って改定されている。
(*2)統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記

上野剛志
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

【関連記事】
資金循環統計(15年1-3月期)
資金循環統計(14年10-12月期)
資金循環統計(14年7-9月期)
貿易統計15年8月~輸出入ともに低調
企業物価指数(2015年8月)~輸入物価は下落基調が強まる