まとめ・・・波乱相場に陥る可能性を踏まえて

本稿では、高リターン(買われた)銘柄と低リターン(売られた)銘柄の特性をPER(バリュエーション=業績対比の割安度)、ROE(資本効率性)、ボラティリティ(株価変動リスク)、自己資本比率(財務リスク)の観点から現在とリーマンショック時を比較した。

その結果、PER、ROE、ボラティリティにおいて、直近の株価急落局面がリーマンショックもしくはその前兆である07年8月のパリバショック前後と類似している様子がみられた。特に、最も売られた銘柄群の特性が似ていることから、波乱相場の兆候とみることもできそうだ。

ただし、これらの類似性は一部の状況証拠に過ぎず、他の指標ではリーマンショック時と異なる点も多い。特に分析結果(4)で示した自己資本比率に関しては現在とリーマンショック時で正反対の結果が示されており、この点は現在とリーマンショック時との決定的な違いと考えられる。

すなわち、リーマンショック時は信用リスク不安の顕在化により急速な信用収縮が起きたため、投資マネーが株式市場に限らずリスク性資産から一目散に逃げ出した。現在はというと、原油など資源価格の急落を背景にグレンコア(スイスの資源商社)の信用不安が取り沙汰されている程度だ。ましてや日本企業に関しては大型企業の信用力を疑問視する声は聞かれない。

現時点の延長線上に波乱相場が待ち構えているとは思わないが、今後、空前の金融緩和で膨張した米企業の債務残高が問題視されたり、新興国経済の急減速や通貨安、もしくは資源安に起因する大型のデフォルトなど、何かをきっかけに波乱相場が訪れないとも限らない。

もしかすると、本稿で示した足元の株式市場の動向は、こうした危険を察知した一部の投資家の行動の現れかもしれない。過度な悲観は良い結果をもたらさないが、"備えあれば憂いなし"も忘れずに市場と向き合いたい。

井出真吾
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 チーフ株式ストラテジスト

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