中国がSDR入りに熱意を示した理由
さらなる人民元の影響力拡大を図るにあたり、SDRは手ごろなツールと映った。国際通貨として箔がつき、何より大国として見栄えが良い。中国人の人生とは、自己主張と交渉を繰り返して、自らのポジションを向上させていくことの連続である。交渉で利を得るため、自らを大きく見せることは欠かせない。中国的本能である。これこそ熱心な活動の原動力といってよい。
見逃せないのは、2009年に中国人民銀行の周小川総裁が、「SDRは貿易、投資など経済実体に向けて活用範囲を拡げるべきだ」と主張していたことだ。2010年、前回のSDR構成通貨採用に向けての発言だった。
SDRは現在、加盟国の外貨準備を調整する間接的役割にとどまっている。それを人民元が加わることを契機として、直接金融の役割を担わせよう、という趣旨である。
しかし今回はそうした主張をしていない。その役割はすでに中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)という別の形で結実しつつあり、ここではもう必要ないということかもしれない。
現地ではあまり報道されず 今後の経済運営はますます難しく
だとすれば、今回のSDR通貨採用に向けての動きは、より“面子”に比重がかかり、後には引けないということだ。カギはアメリカの要求、「取引と交換の自由」をどこまで受け入れるかである。
10月に入り動きは急になっている。人民銀行副総裁が債権市場や為替市場を海外中銀に開放すること、その指標となる3ヶ月債権を毎週発行することを発表し、周小川総裁は、銀行預金金利の上限を撤廃し原則自由化する、と発表した。本気モードに入ったように見えるが、一時しのぎの可能性は高い。アメリカとは常に交渉の余地を残しておきたいのだ。
SRD自体はあまり国内で報道されておらず、話題に上ることも少ない。しかし共産党政権には、かなりの高揚感かもしれない。何しろ二流通貨だった人民元が、わずか20年で基軸通貨アメリカドルに対抗し得るところまで上って来たのだ。貿易関係者としては、採用となればとりあえず祝辞を啓上したい。
しかしあらゆる分野に地雷を抱えてしまった今後の経済運営の難しさは、これまでの比ではない。疑惑のGDPなど“面子”さえ新しい地雷に転化しないとも限らない。中国はこのことを心しておくべきだろう。(高野悠介、中国在住の貿易コンサルタント)
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