退職慰労金の支給停止も不可能ではない

規程を定め取締役会に退職慰労金の支給を任せれば、株主は何もできないという訳ではない。もともと株主総会で決議することを取締役会に委任しているに過ぎないため、退職慰労金の不支給などを株主総会で決議することは可能だ。

ただし過去に確定した事実を覆して支給を停止したり減額したりすることはできない。2010年3月に最高裁は、株主総会で決議された退職慰労金規程に基づく年金支給がその後の規程廃止により打ち切られたことに関し、退任取締役の同意なく年金受給権を失わせることはできない旨の判断を示している。

退職慰労金の不支給などを決定するのであれば、法令、定款、規程に基づきその理由を説明できなければならない。

規程で不支給などの条件を具体的に定めていればよいが、そうでなければ株主に対する利益供与(会社法第120条)、競業取引・利益相反取引(同第356条)、剰余金の配当責任(同462条)、特別背任(同第960条)などに関する直接的な法令違反・不正行為や善管注意義務(同第330条)、忠実義務(同355条)に反する重大な過失を指摘する必要がある。
こうした対応をしなければ、退任取締役から規程違反を理由に会社や現任取締役に対する損害賠償請求を起こされる可能性がある。


役員は退任後も在任時の行為に責任を持つ

会社法第423条第1項では、役員が任務を怠ったときは会社に対し損害賠償責任を負う旨を定めている(任務懈怠責任)。

役員は在任時の行為に対し退任後も引き続き責任を有する。このため退任取締役の明確な法令違反行為などにより重大な損害を被っている場合、会社法第386条第1項に従い、監査役が会社を代表して当該退任取締役の任務懈怠責任を追及する訴訟を提起し、退職慰労金の返還を求めることも可能だ(監査等委員会設置会社の場合は監査等委員、指名委員会等設置会社では監査委員が会社を代表)。