医療費控除、年10万円未満で適用される場合も
多忙なサラリーマンが「あっ、そうだ!やらなきゃ!」と思いつつ、なかなか手をつけられないものが、住宅ローンの繰上返済と医療費控除だろう。医療費控除については、次のような思いこみで実は損をしている人も少なくない。
(1)年間の医療費が10万円を超えないと医療費控除は適用できない?
これは違う。年間の医療費が10万円未満であっても利用できるケースがある。実際の医療費控除の仕組みは次のようになっている。
医療費控除額=対象となる医療費(※)ー〈所得金額×0.05または10万円のいずれか低い金額〉
※対象となる医療費=年間の支払った医療費の合計-左記の医療費に対して保険・助成等で補てんされる金額
「所得金額×0.05または10万円のいずれか低い金額」が目安になるので、年間所得額が仮に150万円の場合、医療費が10万円未満でも、150万円×0.05=7万5千円を超えていれば医療費は適用できる。
(2)高齢の親に仕送りしている場合にはその親の医療費も対象に
医療費控除の対象として知られているのは、サラリーマン本人と同居の扶養家族だろう。しかし、実は対象はもっと幅広い。対象となる医療費は、正確には「自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族」のために支払われたもの。つまり、同一生計ならば、たとえ税務上の扶養親族でなくても、別居でも、対象になるということである。
例えば、共働き世帯の場合ならば、本人と配偶者の支払った医療費が(1)の要件を満たすならば、所得控除が可能である。この場合、所得が高い方の確定申告で適用すれば、控除額は大きくなる。また、別居の親に生活費や療養費を常に送っている場合などについても、適用することができる。
寄付控除、活用したい「ふるさと納税」
寄付控除の中で昨今、特に有名なのが「ふるさと納税」だ。2009年度ふるさと納税導入時は制度の利用人数が3万人、寄付金額73億円、税額控除額が19億円しかなかったものが、14年度には利用人数13万人、寄付金額142億円、税額控除額61億円と大幅に増加した。財政赤字に苦しむ地方自治体の歳入を潤し、かつ、個人においても利用すればするほど「もうかる」制度となっていることから、今後もますます利用する人は増える見込みだ。
この流れを受けて、国は15年から、ふるさと納税によって所得税と住民税から税額控除される金額の上限枠を約2倍に拡大。例えば年収700万円で扶養家族が専業主婦の妻だけの場合、14年までの控除限度額は5万5千円だったのが、15年からは10万8000円となる。
さらに、制度利用の障壁を低くする対策もなされている。ふるさと納税を含めた寄付に係る税額控除の適用を受ける場合には、毎年3月15日までに確定申告することが要件だったが、15年4月以降、寄付先が年間で延べ5つの自治体までの場合には、確定申告をしなくても、ふるさと納税を行った年の所得税から自動的に適用されることとなった。
「ふるさと納税」の返礼品の源泉は、よくよく考えれば国民の血税であることを鑑みると、お得なようでいて実はそうとも言い切れない制度ではある。しかし、個々人の今ある家計にはメリットが大きいのも事実だ。
これ以外にも、災害や盗難に遭った場合に生じた場合に損失額の一部を所得控除できる「雑損控除」、無収入の家族分の健康保険料や年金保険料を支払っているなら控除しておきたい「社会保険料控除」、仕事に絡んで多額の出費があるなら控除の可能性が生じる「特定支出控除」などがある。ちょっとした気づきが家計の負担の軽減につながる。今から、様々な所得控除についてチェックしておいた方がいいだろう。
鈴木 まゆ子(すずき まゆこ)税理士
鈴木まゆ子事務所代表。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。ドン・キホーテ勤務中に会計に興味を持ち会計事務所に転職する。妊娠・出産・育児をしながら税理士試験の受験勉強を続け09年に合格。12年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を行う行政書士の夫とともに外国人の決算・申告・コンサルティングに従事。14年から国際相続などを中心に解説記事作成業務を行っている。8歳、5歳、2歳の三姉妹の母。