民泊
(写真=PIXTA)

10月20日に開催された「国家戦略特区諮問会議」で、安倍晋三首相が指示した「民泊拡大」の発言が注目を集めている。

民泊とは、簡単に言えば「一般の民間住宅に観光客を有償で宿泊させる」こと。中国人観光客の爆買いなどをはじめ日本経済に恩恵をもたらしている外国人観光客だが、東京都内や大阪市など、観光客が集中する地域では深刻な宿泊施設不足が指摘されている。

「ホテルの予約が取れない…」という現実を目の当たりにした人も少なくないはずだ。今回の「民泊推進発言」は、「国家戦略特別区(以下、特別区)」の地域内限定ではあるものの、増え続ける訪日外国人の宿泊ニーズに応えるための規制緩和と言っていいだろう。

すでに、ネットなどを介して外国人観光客を格安の料金で宿泊させるサービスが急速に拡大していると言われる。しかし、その大半は法的にはグレーなものであるのも事実だ。法整備の遅れが指摘されている「民泊ビジネス」の背景を考える。


大半が法的にグレー? 民泊ビジネスの現状とは?

そもそも民泊ビジネスとは何か。日本には「旅館業法」という法律があって、勝手に観光客を空き部屋などに宿泊させることはできない。「民宿」という制度もあるが、客室の延床面積が33平方メートル以上でなければならないといった制限もあり、誰もが気軽に観光客に部屋を貸すことはできないようになっている。

それに対して「民泊」は、面積が33平方メートル未満でも宿泊を可能にした制度で、特別区という限定付きだが農業体験などに限っては最低7泊以上であれば宿泊可能にしている。農村漁村の観光振興を目的に規制緩和された制度と言っていいだろう。

この民泊を、農村や漁村以外の一般の住宅でも可能にしようというのが、現在進められている民泊推進の動きだ。旅館業法の特例として、一般のマンションや民間住宅でも、観光客の宿泊を可能にしようというものだ。

すでに東京都の大田区や大阪府のように、「民泊条例」の審議や制定にまでこぎつけている地域もある。こうした背景には、訪日外国人の急増がある。積極的な外国人観光客の誘致策、そして急激な円安などによって、2014年の訪日外国人数は1341万人、対前年比29.4%だったのだが、2015年に入ってから加速し1-9月の段階で1448万人に達している。

とりわけ急増しているのが中国人観光客で、9月末の段階で383万8100人、対前年比114.6%増となっている。入国ビザの緩和などが功を奏しているとみられ、中国人観光客の爆買いによって国内に「インバウンド景気」をもたらしていることは良く知られている。

しかし、その一方で訪日外国人の伸び=宿泊施設不足を生み出しており、いまや首都圏や大阪地区では慢性的な宿泊施設不足と言われている。宿泊施設の稼働率が80%を超えると予約が取りにくくなると言われている中、観光庁の発表によると2015年1〜6月期のシティホテル客室稼働率は大阪で87.1%、東京で83.1%であった。(出典:観光庁宿泊旅行統計調査 第8表より)


「民泊条例」の制定など対策急ぐ地方自治体

もっとも、この民泊推進には問題点も数多くある。実際、当初政府が想定していたよりも簡単には推進できていないのが現実だ。宿泊に対してさまざまな規制があって、実情にあっていないという指摘が多い。

たとえば、独自の保健所を持つ大阪市は条例を制定して民泊を可能にする必要があるが、条例案を同市議会に提出したものの2014年秋に否決されている。防犯対策などの面で不備があり、現在防犯対策などを盛り込み、再提案されて審議中となっている。

東京都大田区も現在審議中だが、ホテルや旅館などの建築が可能な第一種住居地域にあることなどが条件になっている。後述する大阪府と同様に「届出制」で、必要な条件を満たしていない場合は改修などが求められる。

一方、全国初の条例制定となったのが大阪府だ。10月27日に大阪府議会で可決された。府内43市町村のうち、大阪市など独自の保健所を持つ6市町村を除く37市町村で適用となる。

地域によって異なるため一概には言えないが、民泊の概要をまとめると次のようになる。

●滞在日数は7~10日間以上(自治体によって制定できる)
●滞在者名簿の作成や旅券確認を義務付ける
●立ち入り調査などを可能にする
●床面積25平方メートル以上、出入り口には鍵が必要
●外国語による利用案内や緊急時の情報提供
●日本人の滞在も可能

こうした民泊に対して、いくつかの疑問や問題点も指摘されている。たとえば、民泊のもともとの条件の中に「イベント開催時のみ」という制限がある。さらに問題なのが「最低宿泊日数が7日以上」という条件だ。実情にあっていないという指摘が増えており、実際に宿泊施設不足の解消につながるのかどうか、疑問視されている。


「国家戦略特別区」という制限付きは解決策となるのか?

民泊条例の法的な根拠となっているのは「国家戦略特別区域法(以下、特区法)」だが、そこで定められているルールに従って、各都道府県など自治体が条例を制定して、営業できる期間や条件が定められることになる。言いかえれば、特別区でなければ民泊はできないことになる。さらに、管轄が旅館やホテルと同じ、各地域の保健所というのも話をややこしくしているようだ。

さらに問題なのが、前述した最低7日間以上の宿泊という条件だ。7日未満の宿泊者には貸し出せないことになり、民泊の目的である「外国人旅行者のための宿泊不足解消」の役に立つのか大いに疑問だ。

その背景には、ホテル・旅館業界との競合を避けて、同業界の既得権益を守ることを優先したのではないかという指摘がある。実際に、東京都を訪問する外国人の平均滞在日数は4~6日間が49%、3日間以内は9%となっており、7日未満という観光客が58%に達している(訪日外国人消費動向調査、観光庁調べ、2014年)。

1施設当たりの宿泊日数も日本人、外国人ともに3日間未満が最も多い。要するに、民泊は外国人、日本人の大多数の宿泊ニーズから外れていると考えていいだろう。

もともと民泊は、英国など海外の「B&B」をモデルにしていると思われるが、特区法を絡めてしまったことで、最も重要な宿泊者のニーズを無視するものになってしまったと言っていいだろう。

190か国以上の宿泊物件を仲介している大手仲介サイト「エアービーアンドビー(Airbnb)」は、2013年から日本でサービスをスタートしているが、現状ではその物件の多くが旅館業法違反になっているのが現実。登録物件数は首都圏や京都などが多く8000件と言われており、前年に比べて3倍に伸びているそうだ。

安倍政権は、東京五輪が開催される2020年には訪日外国人数を2000万人に増やすことを目標に掲げている。しかし、現在のままでは2020年までに宿泊施設不足は解消できそうにない。観光立国を目指そうとしている割には既存の利権を守ろうとするなど、ちぐはぐな面が目立つ。(提供: Vortex online

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