今後5年間の分配金成長率

それでは、各運用戦略に係わるシナリオを想定し、今後5年間の分配金成長率を試算する。

内部成長戦略については、ニッセイ基礎研究所の公表する6都市(東京、大阪、名古屋、福岡、札幌、仙台)のオフィス賃料予測(*2)を利用してオフィスビルのNOIを計算し、「オフィスビル以外のアセット」のNOIは横ばいとした。

外部成長戦略及び財務戦略については、最近の運用状況を勘案し年1兆円(利回り5.0%)の物件取得と利率0.6%(借入期間8年)のリファイナンス及び新規借入を想定した(その他の前提は文末に記載)。試算によると、今後5年間の分配金成長率は14%(年平均2.7%)となった(図表―12)。

当初3年は平均3%強の成長を見込み、後半2年は1%成長に鈍化するものの期間を通じて増益を維持する結果となった。なお、後半の鈍化は、ニッセイ基礎研究所の賃料予測(東京)において2017年から賃料下落を予想し既存物件の内部成長がマイナスに寄与するためである。

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おわりに

本稿では、一定の外部環境を前提に今後の分配金成長率を計算したが、各社の運営努力や独自の成長戦略は予測に含まれていない。この成長率をベースにさらなる業績の上積みを期待したい。

また、J-REITの減価償却費についても触れたい。今回はその使途を特定しなかったが、J-REITの運用資産が拡大するなか今後5年間で約1兆円の減価償却費(フリーキャッシュフロー)が生じることになる。

この自由に使える資金をいかに活用して投資主価値の最大化を図るのか、各社の運用方針にも注目したい。

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(*1)2012年から2014年の東証REIT指数(配当除き)の上昇率は127%(年率32%)である。
(*2)竹内一雅「東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2015年)」(2015年2月12日)、「札幌オフィス市場の現況と見通し(2015年)」(2015年2月17日)、「仙台オフィス市場の現況と見通し(2015年)」(2015年2月20日)、「名古屋オフィス市場の現況と見通し(2015年)」(2015年2月24日)、「大阪オフィス市場の現況と見通し(2015年)」(2015年3月3日)、「福岡オフィス市場の現況と見通し(2015年)」(2015年3月10日)

岩佐浩人
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

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