おわりに
以上の分析結果を要約すると、次のようにまとめることができる。
・2013、2014年は、建築費の高騰と消費税率引き上げの2つが住宅取得に大きく影響を与えた。
・建築費の高騰と消費税率の引き上げは、自己資金が乏しく、取得資金の多くを借入金に頼る低年齢層に、住宅取得を手控えさせた可能性がある。
・消費税率の引き上げは、低年齢層に駆け込み取得を促すと同時に、資金計画に圧迫感を与え、住宅の質を低下させた。
・消費税率の引き上げによる負担増に対し、「住宅ローン減税」の拡充や「すまい給付金」は、比較的収入が低い低年齢層に、より効果が高かった。
2017年4月1日より、消費税率を10%に引き上げることが予定されている。消費税率8%への引上げが、建築費高騰と相まって、住宅を取得できる年収の下限額を引き上げ、年収の低い低年齢層の住宅取得にブレーキを掛けたという結果を見ると、10%への引上げは、特に、年収の低い低年齢層の住宅取得に、間違いなく、大きな影響を与えると予想される。
建築費の高騰がこのまま続けば、取得資金負担がさらに高まって、取得を手控える層も増える可能性が高くなり、住宅の質のさらなる低下も懸念されるのである。
低年齢層には、子どもの出生や成長を動機に住宅取得を検討する人も多い。住宅取得を手控える人が増えたり、取得できても、住宅の質が低下したりするならば、将来の日本を支えるために必要不可欠な少子化対策、次世代育成等に対しても、多大なマイナスの影響を及ぼすと考えられる。
「住生活の基盤である良質な住宅の供給」という住生活基本法の基本理念から遠ざかる状況にならないよう、現行の負担軽減策が十分かどうか、2015年以降の住宅取得の動向を見ながら、十分検証する必要があるだろう。
また、与党の平成27年度税制改正大綱に、消費税率10%への引上げ時に軽減税率を導入することが明記されて以降、与党間で、対象品目や経理方式、財源等に関する協議が続けられているが、対象品目については、現在のところもっぱら飲食料品に限定されている。
しかし、消費税率引上げの資金計画への圧迫感が8割にも達するという調査結果を見ると、住宅取得を望む収入の低い低年齢層を中心に、住宅も生活必需品として対象品目にすることが大いに期待されていると考えられる。期待感の高い住宅取得という観点だけでなく、少子化対策、次世代育成等への影響という観点からも、年収の低い低年齢層に対する最も効果的な負担軽減策が検討・策定されることを是非とも期待したい。
(*1)増改築は除く。対象エリアは、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)、名古屋圏(岐阜、愛知、三重)、大阪圏(京都、大阪、兵庫、奈良、滋賀)、地方都市圏(札幌、仙台、静岡、広島、福岡)である。
(*2)「建て替え」は、従前に居住していた住宅を解体して新たに住宅を新築する形式。
(*3)「新たに土地を購入して、新築(土地購入・新築)」は、住宅建築のための土地購入が初めてとなるケースを指す。従前の住宅・土地を売却し新たに取得した土地に新築する、買い替えとは別である。
塩澤誠一郎
ニッセイ基礎研究所 社会研究部
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