ファイザー
(写真=Thinkstock/Getty Images)

米製薬企業大手のファイザーが11月23日、アイルランドに本社を置く同業アラガンを買収すると発表した。買収総額は1600億ドル(約19兆7000億円)で、今年最大のM&Aとなった。両社合併後の年間売上見込額は600億ドル超となり、製薬業界で世界トップとなる模様だ。

一方、米国内では、「税金逃れだ」という批判が絶えない。次期大統領選で民主党の有力候補と目されるヒラリー・クリントン氏は「ファイザーが税の抜け穴を利用して払うべき税金を免れている」と強く批判。対立候補の共和党ドナルド・トランプ氏も同じように今回の買収を強く非難した。

この買収劇がなぜ「税金逃れ」として叩かれるのだろうか。そして、これはファイザーだけの問題なのだろうか。


ファイザーによるM&Aの背景にあったもの

今回のファイザーの買収劇は、今に始まったことではない。2000年にワーナー・ランバート、2003年にファルマシア、2009年にワイスを買収するなど、大型のM&Aを繰り返してきた。理由は、自前での規模拡大の可能性が低くなったことにある。

米国における製薬会社の利益の源泉は、新薬の開発が中心である。1990年代後半から2000年代初頭にかけて大手製薬会社の売上を支えてきたのは、年間売上高が10億ドルを超える主力の医薬品であった。

そのため、各製薬会社は8億ドル超の研究開発費を投入し、長期間にわたって新薬の開発に努めてきたのである。しかし、これが2000年代後半に限界を迎えた。新薬の開発にかかるコストの上昇と主力医薬品の特許の期限切れによる売上の低下で、利益率が悪化したのである。新薬の開発それ自体も当たり外れがかなり大きいリスキーな行為だ。結果、より安全な方法によって利益を確保するため、ファイザーは、米大手製薬会社は有力新薬を会社ごと次々と買収するようになった。これは「ファイザーモデル」と呼ばれ、ファイザーは製薬会社というよりもM&A企業として名が知られるほどになった。

ただ、それでも限界がある。開発や営業のコストはM&Aで削減はできるが、今度は、M&Aそのものによるコストで利益が圧迫されるようになったのだ。そこで利益確保に有効なのが税金の圧縮だった。


ファイザーが行った「タックス・インバージョン」とは

単なる同業他社の買収だけで利益が確保できなくなったファイザーは、法人税率が35%と先進国でも最高水準のアメリカから税率の低い国に本拠地を移すことを模索しはじめた。実際、今回のM&A以前に、英国に本社のあるアストラゼネカに買収を持ちかけている。結果、拒否されたのだが、この交渉時の英国の法人税率は20%前半。この後も低税率国のアメリカの法人税率より15%近く低い。

また、今回買収したアラガンの本社のあるアイルランドの税率は12.5%である。買収といっても表面上はアラガンにファイザーが買収された形をとり、表面上の本社はアイルランドに移ることになる。このように「会社の本拠地を海外に移す」ことを「タックス・インバージョン(課税逆転)」という。

なぜ「タックス・インバージョン」が税金圧縮に有効なのだろうか。答えは国の法人税法にある。米国の法人税法では、米国国内に本拠地がある企業については、国内の所得だけでなく、海外の子会社で得られた所得をすべて合算したうえで、法人税率を課すこととしている。

しかし、M&Aを利用して米国以外の低税率国に本拠地を移し、米国企業をその子会社とすれば、海外での所得については、米国の税率ではなく、その別会社の税率が適用される。これが課税逆転であり、海外での所得にかかる税金が一気に圧縮される結果となるのだ。ただし、これは節税でもなければ、脱税でもない。「租税回避」といわれるものの一つなのである。


あのアップルやグーグルも!?話題の企業に多い「租税回避」とは

「租税回避」とは、法そのものには反していないが、通常用いられないような形式で税負担を減少させる行為をいう。「では『節税』と言ってよいのではないか」と考える方もおいでだろう。しかし、節税とも大きく異なる。どの点で違うのか。「その法律の目的に沿っているかどうか」という一点においてである。

法律というものは、原則として、「目的」があって作られる。税法であっても例外ではない。税法の目的のひとつは、「公平な課税の実現」だ。前述の米国の法人税法の規定についても、「国内に本拠地がある会社については、米国で活動を主に行っているわけだから、全世界での所得について申告してもらうべき。

ただし、たまたま米国に子会社を作ったところについては、米国で活動している分についてだけ課税するのでなければ公平でない」という立法理由があったに違いない。

ファイザーは、この法人税規定をわざと自分の都合のよいように解釈して利用したのである。つまり、「実質的には米国に相変わらず本社機能があるのに、形式上、アイルランドに本社を移すことで、本来課されるべき法人税を免れた」のだ。実質的に本社機能がいまだアメリカにあるのならば、本来は従前どおりの課税が行われるべきである。しかし、現実の法律はそこをカバーしていない。だから「租税回避」なのである。

こういった租税回避は、今回のファイザーの件にはじまったことではない。かつて、アップルやグーグル、アマゾンなどの米国発祥の大手企業は、低税率国に本社機能や知的財産権を移転することで、米国の課税を免れてきた。

グーグルにおいては、低税率国に二つ会社を設立し、更に国家間の租税条約を巧妙に活用した「ダブル・アイリッシュ・ダッチサンドイッチ」と呼ばれるスタイルで多額の租税回避を行ってきた。会社設立や他国の税法研究だけで多額の費用がかかるものだが、それだけの投資を行うということは、それを上回る税金圧縮が見込めるからこそなのである。

このような事態を受け止め、今、先進国を中心に世界各国が連携して租税回避に本腰を上げている。OECDによる税務行政執行共助条約を署名・発効、G20諸国に対する国際的な租税回避防止についての協調体制についての提言などはその表れである。

ただし、それでも、完全は難しいだろう。資源のない国や途上国などにおいては、税率を下げることが資本を投下してもらうための呼び水であるからだ。税金の圧縮にやっきになる大企業と、税金の流出をなんとか食い止めたい先進諸国。このいたちごっこは当分終わりそうにない。

鈴木 まゆ子 税理士 鈴木まゆ子事務所代表
2000年、中央大学法学部法律学科卒業。ドン・キホーテ勤務中に会計に興味を持ち会計事務所に転職する。妊娠・出産・育児をしながら税理士試験の受験勉強を続け09年に合格。12年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を行う行政書士の夫とともに外国人の決算・申告・コンサルティングに従事。14年から国際相続などを中心に解説記事作成業務を行っている。

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