税制改正

(写真=PIXTA)

2015年を「税」の面から振り返ると、その影響は個人の所得に関するものが多かった。税金関連の雑誌や本、ウェブサイトをチェックする場面が多かったのではないだろうか。 国民の生活や関心に対して特に影響の大きかった税制改正についてピックアップしてみよう。

相続税改正——「基礎控除額の引き下げ」ほか

もっとも世間の関心を引いたのは、今年から施行された改正相続税だろう。

実際に、各金融機関での相続セミナーは盛況になり、「相続税増税」をうたった雑誌は飛ぶように売れたそうだ。それまで「金持ちの問題」として片づけていた相続税が、自分たちの生活を脅かすものとして一般人に意識されるようになりつつあるのかもしれない。
中でも注目が集まったのは「基礎控除額の引き下げ」だ。相続税の課税対象となるか否かの目安となる基礎控除額が従来「5000万円+(1000万円×法定相続人の数)」だったのが、2015年1月1日以降、「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」という規定に改められた。

これは相続財産が5000万円の住宅しかなく、妻と子ども2人が相続人候補なら、以前はまったく関係のなかった相続税が、2015年以後には課税される可能性が生じたということだ。5000万円くらいで住宅を購入しているサラリーマンなら人は少なくないだろう。彼らにとってこの改正は他人事ではない。

同時に相続税の税率もその取得する財産の価額に応じてより細分化され、最高税率が50%から55%に引き上げられた。「富める者はより多く納税せよ」ということだ。

ただ「増税」ばかりが強調される今回の改正、実はマイナスの側面だけではない。次のようなプラスの側面もある。

相続人が未成年者や障害者である場合の控除額が引き上げられたこと、小規模宅地等の特例(住居を相続する場合に適用する特例)における限度面積が拡大され、適用要件が緩和されたこと。

また相続時精算課税については適用要件が緩和され、贈与者要件については「65歳以上」から「60歳以上」へ、受贈者については「推定相続人(大体において「子」が対象)」だけでなく、「孫」も含めてOKとなっている。

このほか、暦年課税の贈与税の税率構造が細分化され、300万円超から4500万円以下の贈与については、税率が緩和された。特に、両親や祖父母など直系尊属からの贈与については節税効果が高くなっている。

今回の相続税改正に関しては、正負両方の側面を概観すると「高齢世代の生前中に、その保有資産を現役世代に移転させることで景気を促そうとしている」政府の意図が浮かび上がってくる構造となっている。今後も、この流れはますます加速するだろう。

出国税創設——国税当局が「富裕層の資産フライトは目に余る」と受け止めている

近年の富裕層による資産フライトに歯止めをかけるべく、税務当局が本腰を乗り出した証とも言えるのが、この出国税だ。正式名称は「国外転出をした場合における譲渡所得の課税の特例」という。

今年7月1日以降、日本の居住者が保有している有価証券等の時価総額が1億円以上となる場合において、その人が出張だろうと留学だろうと移住だろうと国外に住まいを移すのならば、出国前にその有価証券等を売却したものとみなし、時価差益に所得税を課税するというものだ。

本来、所得税では、「保有有価証券等の時価による差益には課税をせず、あくまで売却して利益を確定したときにのみ課税を行う」のが原則だ。個人は法人と違い、毎期継続して有価証券等の保有や売却を行うとは限らないためである。

しかし、今回の出国税創設は、この所得税の本来あるべき姿を逸脱したものだと言える。言い換えると、「逸脱してでも食い止めようとしなければいけないほど、富裕層の資産フライトは目に余るもの」として国税当局が受け止めていることの表れなのだ。

出国税以外にも、「国外送金等調書制度」「国外財産調書制度」などにより、富裕層の国外財産の保有状況の把握にはやっきになっている。同時に、近年、税務行政に関する共助条約の締結により、世界各国の税務当局との連携が図られ、これまで以上に富裕層の税務申告や財産状況に関する情報のやりとりが行われるようになってきた。来年1月1日以後、マイナンバー制度が始動し、徐々に金融資産や不動産などとの紐づけが行われるようになるだろう。

「国外資産だから日本の税務署にはバレない」時代は、もう終わりを迎えようとしているのだ。

贈与税の非課税枠拡大

結婚・出産・育児などの場面で、祖父母や両親が子や孫に対して一時的に多額の資金を贈与した場合には、2015年4月から一人当たり1000万円までの贈与については贈与税が非課税となった。

この他、住宅取得資金の非課税贈与は、消費税率引き上げ時期の延長に伴い、適用期間を3年延長、同時に、2015年4月からは非課税枠1000万円を1500万円に拡充した。

また教育資金贈与の非課税措置(非課税枠1500万円)についても、本来2015年末で終わる予定だったが、その期限を2019年3月末に延長している。この教育資金贈与の存在が国民に知られるようになったこと、金融機関が高齢世代の顧客にアピールするようになったことにより、本制度の活用人口が年々増加している現状を受けたものと思われる。

先述の暦年課税の贈与税の税率構造の緩和とあわせて考えると、政府の「高齢世代の保有資産を若年層に移転することを通じて、景気を刺激し、経済の流れを潤滑にしよう」との意図が透けて見える。

これらの変化から、国が「高齢者が保有している金融資産を現役世代へ」と考えていることも分かる。

実際、2014年10−12月期の総務省『家計調査』によれば、2人以上の世帯が保有する金融資産の約70%の年齢層は60歳以上だ。負債を差し引いたうえでの金融資産に焦点を絞れば、約90%が60歳以上の世代に保有されていることがわかる。つまり、日本の金融資産は、高齢世代に偏在しているのだ。

ただこれが現役世代に移るとしても、国外に流出してしまっては意味がない。実際に、富裕層ほど資産を海外に移転することを検討する。これについても今年の税制で国は「待った」をかける姿勢を見せた。

「経済を担う現役世代が資産を持てるようにしたい。けれど課税回避は許さない」。来年以降の税制でも、この流れは続く模様だ。

鈴木 まゆ子 税理士 鈴木まゆ子事務所代表
2000年、中央大学法学部法律学科卒業。ドン・キホーテ在職中に会計に興味を持ち会計事務所に転職する。妊娠・出産・育児をしながら税理士試験の受験勉強を続け09年に合格。12年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を行う行政書士の夫とともに外国人の決算・申告・コンサルティングに従事。14年から国際相続などを中心に解説記事作成業務を行っている。

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