あからさまに表明する中国人はほとんどいないものの、中国人のアメリカ好きは間違いない。ただし民主主義や自由といった価値観に憧れるというより、もっと単純で現実的な感情のようだ。歴史から昨今の情勢まで俯瞰しながら、その理由を探ってみたい。

美しい国と清華大学の設立

中国語でアメリカの事を「美国」(メイグォ)という。これ以上良い当て字は見当たらない。アメリカ(アメリカン?)という発音を「メリケン」と聞き取り「米利堅」という漢字を当てたのは中国人である。現代中国語は北方系で、米はミィという発音だが、欧米船の窓口となった南方系言語ではマやメに近い音であり、これは納得できる。

日本人はそれを踏襲して今日まで「米国」表記を続けているのに対し、中国ではいつのまにか麗しい「美国」に代わってしまった。これはなぜだろう。19世紀中国へ殺到した欧米帝国主義列強の中で、支配者然として気取ったイギリス人、傲岸不遜なロシア人に比べ、明るく親しみやすいアメリカ人は、最も好かれたという。

北京の清華大学は、中国屈指の名門だ。特に工学系に強く、OBには朱鎔基、胡錦濤、習近平とおなじみの名前が見える。この大学の設立(1912年)はアメリカに依っている。義和団事変(1900年)で得た賠償金の還元事業だった。日本も10年遅れて似たような文化事業を始めたが、日中関係の悪化により、清華大学のような果実は結ばなかった。この大学の存在もアメリカ贔屓の要因の一つだろうか。

さらに付け加えると、古代中世の中華帝国は、周辺の朝貢国に対し、概ね穢い字を当てていた。日本をさす倭もそうである。中国統一王朝2000年の歴史からしても、美しい、という「最好字」を異国に当てたのは、破格の優遇である。

アメリカは連合国の仲間という意識

第二次世界大戦ではアメリカは連合国の中核として、日本と戦う中国を支援した。ちなみに連合国と国連の英語表記は(United Nations)で同じだが、中国語表記も「連合国」をそのまま使っている。アメリカとは(United Nations)の原初メンバー同士であり、同じ陣営だ、という仲間意識がある。

米中が対立したのは1949年の中華人民共和国成立から、1972年の米中国交回復まで、今にして思えばこの23年間にすぎない。この間を除くと、アメリカは150年にわたり中国の植民地化や不安定化を恐れ、常に何かしら後押しをしてくれていた。日本では見過ごされがちだが、長い友好関係にあったのである。

習近平主席は2013年、オバマ大統領との最初の首脳会談において、太平洋を米中で――中国的感覚では仲間同士で――勢力範囲を2分しようと提案した。これは前政権の2007年にも突っぱねられており、再びアメリカ側が退けたことで、習外交は最初からつまずいた。