今年一年間放送されたNHK大河ドラマ「花燃ゆ」。幕末から明治維新にかけて活躍した吉田松陰と彼が主宰した松下村塾で育てた志士たち、そしてその松陰を育てた杉家の家族たちを松陰の妹・杉文(すぎ・ふみ。後の楫取(かとり)美和子)を通して描いた歴史ドラマだった。
作中では、若き幕末志士たちが志をもって維新に向かう姿が熱く描かれたが、井上真央演じる杉文は、ビジネスの観点からも学ぶところ大で、それは起業家としても杉文が有能だったからだ。ドラマそのものの視聴率は振るわなかったものの、ビジネスマンも彼女の生涯から学ぶところが多い。今回はそんな彼女の物語を、起業家視点で見返す。
低迷した視聴率と「無名」の主人公
今回の大河ドラマで主人公に選ばれた吉田松陰の妹・杉文は歴史上ほとんど無名だったといえる。視聴者の関心も高いとは言えず、放送前から「大河ドラマの主人公にしては地味過ぎる」という否定的な意見が多かった。そのためか、最近の大河ドラマに比べて、「花燃ゆ」の視聴率はふるわず、残念ながら最終回まで低迷したまま終了した。
最近5年間の大河ドラマの平均視聴率と比べても、それは明白で、「龍馬伝(2010年)」(福山雅治主演)が18.7%、「江~姫たちの戦国(2011年)」(上野樹里主演)で17.7%、「平清盛(2012年)」(松山ケンイチ主演)で12.0%、「八重の桜(2013年)」(綾瀬はるか主演)で14.6%、「軍師官兵衛(2014年)」(岡田准一主演)で15.8%となっており、2012年とほぼ同じ低さにとどまった。
吉田松陰の妹・杉文。この無名の人物を主人公に据えたことが視聴率低迷の大きな原因のひとつとされたが、逆に、彼女を通すことで、幕末から明治維新にいたる動乱の時代に重要な役割を果たした志士たちのエネルギッシュな生き様と志、それを支える杉文の役割を浮かび上がらせたともいえるだろう。
井上真央が演じた「女幹事」杉文
松下村塾はそもそも1842年(天保13年)に玉木文之進(吉田松陰の叔父)が開いた私塾だ。それを、吉田松陰が引き継ぎ、武士や町民など身分や年齢の隔てなく塾生を受け入れ、50人ほどの塾生に学問を教えた。自由な雰囲気と闊達な意見交換で、いまでいうビジネスワークショップのようなスタイルだっととも言われている。
そのような環境から、リーダーの久坂玄瑞をはじめ、高杉晋作や後の伊藤博文など幕末から明治維新への原動力となる、熱き志を持った優れた人材を輩出した。私塾であったのでその運営には苦労が絶えなかったはずだが、塾を切り盛りし彼らの成長を支えたのが「花燃ゆ」の主人公・杉文だった。
歴史的にはほぼ無名であるものの、杉文は時代の志士たちの成長を陰から見守り支えた。決して派手ではないものの、女性らしく温厚で、大人しくてでしゃばることはなく、人より一歩引いて空気を読むことに長けていたという。また細かなところに気が回るタイプで、その優れた手腕から「女幹事」と言われており、塾やさまざまな計画をきりもりする役回りを果たしたそうだ。