中国では2016年から「2人っ子政策」が始動する。国家衛生計画出産委員会の試算では、新たに9000万人が2人目の子供を目標とするようになるという。それにしても、少子高齢化傾向が認められるなかで、これまで新たな政策を打ち出すことなく「1人っ子政策」が放置され続けてきたのはなぜか? 日中産学官交流機構 特別研究員の田中修氏に解説して頂いた。

三十数年続いた1人っ子政策に幕

12月14日に開催された党中央政治局会議において、1人っ子政策の廃止が再確認された。1人っ子政策の廃止は、今年10月の党5中全会の第13次5ヵ年計画党中央建議の中で決定が下されていたが、これで30数年続いた同政策に幕を降ろすこととなった。

その背景について習近平総書記は、5中全会で「現在、適齢人口の子育てへの意欲が顕著に低下し、女性の合計特殊出生率は人口再生産水準より顕著に低い」「他方、わが国の人口高齢化傾向は顕著であり、2014年60歳以上人口が総人口に占めるウエイトは既に15%を超え、老齢人口のウエイトは世界平均水準より高く、14歳以下人口のウエイトは世界平均水準より低く、労働年齢人口は絶対的な減少を開始しており、この傾向はなお続くことになる」と述べている。

中国の若者の子育て概念に変化

このような人口構造の変化が現われた理由は、中国の若者の子育て観念の変化である。習近平総書記によれば、「現在の子育ての主体は1980年以降、および90年以降生まれであり、彼らの子育ての観念は変化しており、子育てのコストも増加している。同時に、社会保障水準が高まり、子育てにより老後を保障するという社会観念が顕著に弱体化しており、少ない優秀な子供を産み育てることが社会の子育て観念の主流となっている」のである。

現在、中国でも大学進学熱が高まり、子供1人当たりの教育コストが上昇している。かつては、子供を多く産むことが老後の生活保障になったが、1人の子供がいい大学を出て、いい会社に入り、自分の老後を支えてくれるのであれば、それは最も効率的な老後保障となる。また、大手国有企業や官庁に勤めていれば、年金で老後を何とか暮らしていくことも可能となった。

この少子高齢化情況を打破するため、2013年の党3中全会の決定を受け、一方が1人っ子の夫婦は2人の子供をもてるという政策が実施された。しかし、習近平総書記によれば、全国で条件に符合した夫婦は1100万組余りであったが、今年8月末までに、2人目の子育てを申請した夫婦は169万組にすぎず、ウエイトは15.4%と、余り効果は上がらなかった。

そこで習近平総書記は、「1組の夫婦が2人の子供をもてる政策を全面実施することにより、子育ての潜在力を一層発揮させることを通じて、人口高齢化圧力を軽減し、労働力供給を増やし、人口のバランスのとれた発展を促進できることになる」と強調したのである。

計画出産部門の既得権益化も弊害となっていた

実は、少子高齢化の加速以外にも、1人っ子政策には大きな弊害があった。男女比率の歪みである。農村では労働力として男子の方が好まれるため、妊娠中の検査で子供が女の子と分かると、中絶が横行していたのである。このため、農村では出生人口の男女比が120:100になっているとされ、今後農村で1000万人を超える「結婚したくてもできない男性」が現われることが予想されている。これは深刻な社会問題である。

にもかかわらず、1人っ子政策が30数年も放置されていたのは、出産制限を担当する国家の計画出産部門が、既得権益集団化していたからとされる。彼らの数は100万人ともいわれ、中国の家庭の隅々までプライバシーを監視していた。また、2人目の子供を産んだ場合には罰金が科されるが、その運用は恣意的であり、しばしば腐敗を生み、農村における暴動の原因にもなってきた。この組織を今後どうするかが決められなかったため、1人っ子政策がずるずると継続されたのである。

現在、関連法案が全人代常務委員会で審議されており、2016年から「二人っ子政策」が始動することとなる。国家衛生計画出産委員会の試算では、新たに9000万人が二人目の子供を目標とするようになるとされている。しかし、日本の例をみても分かるように、いったん都市化の進んだ地域では、少子化の流れはそう簡単には止まらない。結果は、2020年代後半に見えてこよう。

【筆者略歴】田中修(たなか・おさむ) 日中産学官交流機構 特別研究員
1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信州大学経済学部教授、内閣府参事官を歴任。2009年4月〜9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。2014年4月から中国塾を主宰。学術博士(東京大学)。近著に「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)、「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)、ほか著書多数。