(写真=PIXTA)
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はじめに

◆エポックメイキングとなったGPIFの国連責任投資原則への署名

資金の流れの中枢にいる者が変わると、企業や社会が変わる。投資の世界においても同様である。

先進国のなかで日本が最も遅れていたESG(環境・社会・ガバナンス)投資(*1)が、大きく変わろうとしている。世界最大の運用資金140兆円をもつGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、今年9月16日に『国連責任投資原則(*2)』に署名したからである。

これは、資金運用においてESGの視点を反映させることを表明したもので、同28日に安倍首相が国連で演説したほどの意味をもつ。また、GPIFから年金運用を受託する機関も、その趣旨に賛同するかどうかが問われることになる。

◆日本企業は海外事業展開におけるESG課題をどのように考えているのか?

日本企業の海外事業展開がアジアを中心に一層進んでいる。「チャイナ+ワン」と言われるように、近年では中国はもとよりアジア全体において事業を展開し、その勢いは止みそうもない。

そのような動きのなかで、持続可能な海外事業を展開するためには単に財務的要素だけでなく、ESGに代表される非財務要素にも十分に考慮する必要がでてきた。このことは、様々なリスク事例が物語っている。

それゆえ、海外事業では様々なESGへの配慮が欠かせないが、海外事業における経営課題の全体像を理解しておくこともまた大事である。つまり、これからの海外事業では「QCD(*3)+ESG」が基本となる。

本稿では、経営課題を"経営資源"、"競争力"、"ESG"の3領域に整理して、ESG課題の位置づけを分析する。その中で、日本企業はESG課題をどのように考えているのかを明らかにしたい。

そこで本稿では、当研究所が調査協力した、日本生命、ニッセイ・リースの「ニッセイ景況アンケート調査結果2015年度上期調査」を基に、日本企業の海外事業展開の現状とともに、ESG問題の認識とその促進要因を分析する。