長期的な企業価値創造に向けた、ESGの重要性認識

◆半数がESGの重要性を認識するも、判断しかねる企業も少なくない

ここで現時点における日本企業のESGの重要度に対する認識について、「ニッセイ景況アンケート」の結果からみてみよう。

まず、「長期的な企業価値創造のためには、財務要素(売上高、利益あるいは株価やROEなど)だけでなく、今後は非財務要素(ESG要素)も重要となるか」との質問には、どのような回答があったのであろうか(図表7)。

【全体では5割が今後ESGは重要とするも、4割は判断に迷う】

全産業でみると、ESGは「かなり重要となる」が14.5%、「ある程度重要となる」は35.2%であり、合わせて約5割(49.7%)を占める。これに対して、ESGに対する否定的な「それほど重要とならない」(5.1%)と「ほとんど関係ない」(4.1%)は、合わせても1割に満たない(9.2%)。このことからESGの重要性に対する認識は低くはないと言える。

ただし、「よくわからない」(24.7%)や「無回答」(16.2%)も少なくない。合わせて約4割(40.9%)となり、現状では多くの企業がESGを判断しかねている様子もうかがえる。

【製造業のESG認識が非製造業よりも高い】

ESGの重要性認識を製造業と非製造業に分けてみると、「かなり重要となる」と「ある程度重要となる」を合わせて、製造業の6割弱(15.5%+40.7%⇒56.2%)に対して、非製造業は5割弱(14.1%+32.7%⇒46.8%)と約10ポイント低い。「よくわからない」と「無回答」は逆の傾向を示す。

【大企業と中小企業のESG認識の差は大きい】

また企業規模別にみると、規模が大きいほどESGの重要度認識は高くなる。「かなり重要となる」と「ある程度重要となる」を合わせて、大企業の約7割(23.1%+46.2%⇒69.3%)に対して、中堅企業が約6割(17.3%+41.6%⇒58.9%)、中小企業は約4割(11.4%+30.2%⇒41.6%)と低くなる。逆に、「よくわからない」と「無回答」は大幅に増える。

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◆海外や外部とのかかわりを反映するESGの重要性認識

それでは、上述した今後のESGの重要性認識に差異をもたらす要因はどのようなものであろうか。そこで、「海外事業の有無」「外国人持株比率」「顧客のESG監査」「投資家からのESG照会」の要因との関係性を調べてみた。その結果、図表8の矢印で示すように、以下の仮説が導き出すことができる。

・海外事業を行っていれば、ESGの重要性認識は高い。
・顧客のESG監査があれば、ESGの重要性認識は高い。
・外国人持株比率が高いほど、ESGの重要性認識は高くなる。
・投資家からのESG照会があれば、ESGの重要性認識は高くなる。

上記の仮説を補完する準仮説は、以下の通りである。

・海外事業を行っていない場合、また顧客のESG監査がない場合、ESGの重要性の判断に迷う。
・外国人株主がいない場合、また投資家のESG照会がない場合、ESGの重要性の判断に迷う。

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◆ESGの重要性認識を促進するもの

ここでESGの重要性認識の促進要因を探るために、業種別にもう少し掘り下げてみたい。図表9は20業種のESGの重要性認識について、アンケートデータを基に独自のウエイト付けにより数値化(*7)したものである(本稿では「ESG重要度」と呼ぶことにする)。

全体に、ESG重要度は前述のように製造業では素材型よりも加工型の方が高く、非製造業は製造業より低い。しかし、個別業種でみると比較的大きな差異がある。ESG重要度は、最上位の輸送用機械(42.1%)から最下位の出版・印刷(23.0%)まで、ほぼ2倍の開きがある。

ESG重要度が高いのは、素材型製造業では化学(40.1%)や鉱業・石油(39.9%)、非鉄金属(37.0%)、加工製造業では輸送用機械(42.1%)、電気機械(41.7%)に続いて、一般・精密機械(37.8%)が高い。非製造業では通信(40.0%)や電気・ガス(38.6%)が高い。

逆に、ESG重要度が低いのは、製造業では繊維・衣服(27.8%)と出版・印刷(23.0%)、非製造業ではサービス(26.7%)である。前述の仮説を踏まえ、このような業種別のESG重要度の違いの要因を探ってみよう。

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【海外事業展開が進むと、また外国人株主が増えると、ESG認識は高まる】

そこで、企業の海外事業展開に着目した仮想的な「海外売上比率」と、今後上昇が予想される「外国人持株比率」に対する「ESG重要度」との関係をみてみた(図表10)。

具体的にはアンケートデータを基に独自のウエイト付けにより、それぞれを数値化(*8)してプロットしたものである。「海外売上比率」が高いほど、「ESG重要度」も高まる傾向は明らかである(直線近似)。特に、海外売上比率の高い加工型製造業の一般・精密機械、電気機械、輸送用機械では、ESG重要度も高い水準にある。

このグループに準ずるのが素材型製造業の鉱業・石油、化学、非鉄金属である。非製造業については全体に海外展開率は低いが、ESG重要度には業種によるバラツキがあり、通信や電気・ガスではESG重要度が高い。海外売上が増せば、顧客のESG監査も増えよう。

他方、外国人持株比率とESG重要度の関係についても因果関係が認められる(対数近似)。加工型製造業や素材型製造業ではいずれも両変数は高い水準にはあるものの、海外売上比率とESG重要度の関係ほどの業種的偏りはない。外国人株主が増えれば、ESGへの問い合わせも増えてこよう。