おわりに

これまでの分析から、日本企業のESGの重要性認識を促進する要因は、次の二つに集約できそうである。すなわち、①海外事業展開の進展と②外国人株主の増加である。

今後、日本企業はグローバル化の流れの中で、日本社会とは異なる多様な価値観(社会的課題を含む)と遭遇し、マネジメントとして非財務要素への配慮が企業価値の創造にも寄与することが納得できるようになるだろう。

また、GPIFのUNPRIへの署名とともに日本版スチュワードシップ・コードの発行により、機関投資家とりわけ外国の長期投資家の増加が予想され、日本でのエンゲージメントやESG投資の普及が促進さけるだろう。この二つが相まって、日本企業のESG認識がさらに高まることに期待したい。

コラム:外国人持株比率が高まると、「人権デュー・デリジェンス」は進む!?

日本企業がESGの中で最も疎い人権デュー・ディリジェンスについて、経済同友会の調査結果をみてみよう(下図表)。これを既に実施しているのは全体で3割弱(27%)にすぎないが、サプライチェーンにおける児童労働や強制労働など深刻な人権侵害の可能性を認識するグローバル視点のある企業(外国人株主比率の高い企業)ほど進んでいる。

特に、外国人株主比率が50%以上の企業では、人権侵害への「加担」を防ぐデュー・ディリジェンスを100%実施している。彼我の差を感じざるを得ない。

ESG10

(*1)投資判断の際に財務情報に加えて、持続可能な社会の実現に不可欠なESG課題解決に本業で取り組む企業を選別して行う投資。長期的な投資パフォーマンスに影響を与える可能性が高いと考えられている。United Nation Principles of Responsible Investment
(*2)2005年に当時のアナン国連事務総長が機関投資家や運用機関に対して提唱したイニシアティブで、2006年に成立した。
(*3)品質、コスト、納期の頭文字
(*4)日本版スチュワードシップ・コードでは「機関投資家は、○○○すべきである」と表現される。これに対して、国連責任投資原則では「私たち機関投資家は、○○○する」と表現される。詳細は図表2を参照されたい。
(*5)物言う株主として有名なカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)、世界最大級の運用規模をもつノルウェー政府年金基金、
英国最大の年金運用機関ハーミーズなど。
(*6)実施主体:日本生命、ニッセイ・リース(調査協力:ニッセイ基礎研究所)、調査時期:2015年8月、回答企業数:3,937社(全国)、企業属性:製造業37%・非製造業60%、大企業13%・中堅企業26%・中小企業61%
(*7)「ESG重要度(%)」=「ESGはかなり重要となる」×1.0+「ESGはある程度重要となる」×0.5
(*8)「海外売上比率(%)」=海外売上比率の回答の比率刻みの中央値に回答%を乗じた数値の総和
「外国人持株比率(%)」=外国人持株比率の回答の比率刻みの中央値に回答%を乗じた数値の総和

川村雅彦
ニッセイ基礎研究所 保険研究部

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