"分水嶺"を越えた日本のESG

◆画期的なGPIFの『国連責任投資原則』への署名

【日本版スチュワードシップ・コードの狙い】

昨年2月、金融庁は日本の機関投資家(資金運用機関を含む)向けの行動原則である「責任ある機関投資家」の諸原則、いわゆる『日本版スチュワードシップ・コード』を公表した。既に主だった日本の機関投資家が「受け入れ」を表明し、この12月11日時点で201機関となった。

スチュワードは執事や財産管理人を意味するが、スチュワードシップはキリスト教に由来し、その根底には"神から委ねられた恵みや財産を、責任をもって管理する"という考え方がある。

このコードは、機関投資家が株式の保有者・運用者として投資先企業に対し、その企業価値の向上や持続的成長につながるよう、「実力」をつけて「対話」により積極的に働きかけることを責務として求める。

つまり、企業が短期的な利益主義に陥ることや内向きになることを防ぎ、顧客や受益者へ中長期のリターンをもたらす基本姿勢を再確認せよ、と言っているのである。

【国連の責任投資原則の狙い】

日本版スチュワードシップ・コードは、他者から求められる機関投資家の行動規範(原則)である。これに対して、2006年に成立した『国連責任投資原則』(略称UNPRI)は、機関投資家などが自らの意思として責任ある投資行動原則をつくり賛同者を募るものである(*4)。

当時のアナン国連事務総長の呼びかけで集まった世界の主要な機関投資家(*5)によりまとめられたものである。6項目から成るUNPRIは、機関投資家が「資産運用においても、環境・社会・ガバナンス(ESG)問題に配慮することにより、社会的責任を果たすこと」を基本精神とする。

現在、UNPRIに署名している機関は世界で1,378となり、その内訳は年金基金などの機関投資家287、運用受託機関905、および専門調査機関186である。本邦機関も徐々に増え33となったが、全体からみると少ない。ただし、次に述べるGPIFのUNPRIへの署名を契機に、今後は増加することに期待したい。

【GPIFの国連責任投資原則への署名】

GPIFの新たな投資原則は「株式投資においては、スチュワードシップ責任を果たす活動を通じて、被保険者のために中長期的な投資収益の拡大を図る」というものであり、従来の方針からは考えられない画期的なものとなった。

この基本方針の下で、投資先企業におけるESG課題を考慮すること、すなわち企業価値の向上や持続的成長を促すことで、被保険者のために中長期的な投資リターンの拡大を図ることを明確にしており、具体的には以下のことを実践するとしている(図表1)。

・運用受託機関による投資先企業へのエンゲージメントの中で、ESGに考慮した自主的な取組を促す。
・ESGの考え方を明確にするため、国連責任投資原則(UNPRI)に署名する。
・ESGを考慮したアクティブ運用について、研究を継続する。

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◆持続可能な社会と企業価値の創造に向けたESG投資

日本版スチュワードシップ・コードと国連責任投資原則のキーワードはいずれも「責任ある投資」である。

つまり、共通することは長期的視点、投資リターンの拡大(運用パフォーマンスの向上)、そして受益者の利益である。相違点は責任遂行における力点にあり、コードは"手段"と"実力"、UNPRIはさらに視野を広げて明確に「ESG課題」に焦点を当てていることである(図表2)。

一方、企業側では長期的な企業価値創造に向けて財務・非財務情報を統合する「統合報告」が世界的に模索されており、グローバル時代のメガトレンドを軽視した経営戦略は画餅に帰す可能性がある。それでは、日本企業は海外事業展開を進めるなかで、ESGをどのように認識しているのであろうか。

ESG2