「毎月分配型投資信託は元本を食い潰すばかりのとんでもない金融商品だ」そんな批判をよく耳にする。私自身も毎月分配型投資信託の商品性に異議を唱え、販売の現場でその問題点を多くのお客様に説明してきた。それでも多くのファンドは資金を集めるために高い分配金をアピールしている。「分配金がたくさんもらえるファンドを買いたい」そんな基準で投資信託を選択する投資家が後を絶たないからだ。

批判することは簡単だ。しかし、日々現場で投資家と向き合い、彼らの声を聞けば聞くほど、ファイナンシャルプランナーが唱える正論が虚しく聞こえる。どんな正論を唱えようとも、販売現場では目の前のお客様のニーズが正義だ。

「運用がマイナスになっても全く構いません」

実際にある高齢の投資家に毎月分配型投資信託を販売したときの事例だ。お客様は70歳代の女性で50歳代の長女夫婦と同居していた。古くから商売を営んでおり、多くの金融資産を有し、個別株への投資経験も長く、金融や経済に対する知識も豊富な方だ。日本株に投資する投資信託を長期保有され、運用は順調であった。

ある日、本人と同居している長女夫婦から、投資信託の乗り換えについて相談を受けた。「できるだけ多くの分配金がもらえる投資信託に乗り換えたい」という内容だった。当然の如く、私は毎月分配型ファンドの商品性の欠点を説き、乗り換えには反対した。「そんなファンドを買っても儲かる可能性は低いですよ。結局元本食い潰していくだけですよ」と、ごくありきたりの話をしたのだが、長女夫婦から返ってきた反応は予想外のものだった。

「親切で言ってくださるのはよく分かるんですが、もうお金を増やす必要は無いんです」「母は投資が好きだから投資信託は続けたいと言っていますが、好きなところへ旅行に行き、美味しいものを食べられるのもあと10年です」「お金を増やすことよりも、お金を使わせてやりたいと思います」「運用がマイナスになっても全く構いません。とにかく分配金の多い投資信託に乗り換えたいんです」

この話を聞いた私は大きな衝撃を受けた。私にとっては資産を増やすことこそが正義であった。

批判されながらも、なぜ分配金を重視する毎月分配型投資信託が生き残るのか? それを求めるニーズが確実に存在するからだ。ならば、せめて危険な分配型投信には近づかない方法だけでも知って頂きたい。

投資信託を販売している銀行員のなかには、いまから紹介する方法を知らないものもいる。知っていても、求められなければあえて説明することも無い。だからこそ、投資家自身はせめてこのことは知っておいて欲しいのだ。

危険な分配型投信はこうして見抜ける

毎月分配金が出ていれば、投資家は運用は順調であると考える。実際には運用が悪化していても、その状況は投資家には知らされることも無く、分配金は支払われ続ける。過去の収益の蓄えや、投資家から集めた投資元本を取り崩しながら分配金を支払い続ける不健全なファンドが多数あることは事実だ。ある日突然、分配金減額を知らされてあわてふためくことの無いようにだけはしたいものだ。

まずは直接利回りから分配金の健全性を判断しよう。運用会社が公表している月次レポートから数字を拾い出していく。

基準価額×直接利回り÷12=1万口当たりのファンドの収入
1万口当たりのファンドの収入÷毎月の分配金×100%=まかなえている割合

ということになる。実際に大手運用会社が「或る新興国」の債券で運用するファンド(2015年11月30日現在)の数字をあてはめると以下のようになる。

4986円×11.5%÷12=47.78円
47.78円÷40円×100%=119.45%

この数字が100%を超えているということは、健全な分配をおこなっているということになる。しかし、あえてこのファンドを取り上げたのには理由がある。このファンドの現在の分配金水準は確かに妥当性があるのだが、かつてこのファンドは無謀な分配金の支払いを続けてきた。2015年3月まで90円、同6月まで60円の分配を継続してきた。その結果、10月から40円まで分配を削減せざるを得なくなったのだ。

無理な分配を継続したファンドの末路

投資家が知っておくべき数字がもう一つある。「分配可能期間」だ。この数字も運用報告書や月次レポートの数字を拾い出すことで計算できる。

翌期繰越分配対象額÷当期分配金(当期の収益以外)=分配可能期間

直接利回り同様、前述の大手運用会社が「或る新興国」の債券で運用するファンド(15年9月26日)の実際の数字をあてはめる。

83円÷21円=3.95カ月

つまり、この「或る新興国」の債券で運用するファンドは3.95カ月で分配金が底をつく計算となる。上述の通り、このファンドは10月から分配金を40円に引き下げている。この計算ではどう考えても分配金の維持が困難であることは一目瞭然だ。無理な分配を継続したファンドの末路はこのようになるという例だ。

このように、ひと手間かける必要はあるが、分配金が削減される可能性は投資家自身でも判断が可能だ。運用報告書やレポートを読んでも、こうした数字が記載されていないことや、どこに記載されているのか分からないこともある。その場合には遠慮せずに、運用会社に問い合わせるべきだ。あなたは高い購入手数料を払い、さらに信託報酬まで払っているのだから、それくらいのサービスを受ける権利はあるはずだ。(或る銀行員)

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