一般的に高所得の方ほど、お金が貯まっているというイメージがあるだろう。確かに、高所得の方が家計に余裕がある分、お金が貯まりやすいのは事実だ。しかし、今まで、高所得の方たちのマネー相談に携わってきたが、所得の割にお金が貯まっていないというケースは少なくない。そこで、今回は、高所得の方の陥りやすい落とし穴について、これまでのマネー相談を例に紹介したい。

高所得の人ほどお金が貯まりやすいは本当!?

筆者のFP業務の経験では「特に無駄使いしているわけではないけれど、なかなかお金が貯まらない…」といった相談は意外と多い。なかなかお金が貯まらない…という人に「どうしたらお金が貯まると思いますか?」と質問すると、「収入が上がればお金が貯まる」と答える人は少なくない。

確かに、収入が上がればそれだけ家計に余裕ができるので、高所得の方が、お金が貯まりやすいのは事実だろう。ただ、高所得の人の相談にも多数のってきたが、意外に多いのが所得の割にお金が貯まっていないケースである。

実際、30代前半、DINKS(共働きで子供を意識的に持たない夫婦)で、世帯年収1300万円の家庭の相談にのったときにも、年間で150万円程度の貯蓄しかできていなかった。一般の家庭で年間150万円の貯蓄といえば、素晴らしいと思うが、世帯年収1300万円、しかもDINKSであればもっとお金を貯められる余地はある。

この夫婦は、近い将来、子供を2人ほしいと思っていて、しかも2人とも私立の学校に行かせたいので、今よりも貯金を増やしたいとの理由で相談に来られた。自分たちは特に無駄使いしていないという。なぜ、高所得の割にそんなにお金が貯まらないのだろうか。

普段の買い物が少しずつ贅沢に!

まず、支出の分析をしてみると、確かにこれといって特に無駄遣いしているわけでもないのだが、年収が平均の家庭の支出状況と比べると、日常のちょっとした買い物が少しずつ高いのである。

たとえば、コーヒーを飲むときには、マクドナルドやドトールではなく、スターバックスやタリーズ、洋服はユニクロではなく、ユナイテッドアローズ、日常の買い物は、西友やイオンではなく、成城石井や紀ノ国屋などで買い物をするといった具合だ。この普段の買い物全てにおいて単価が高いので、結果的に金額がかさんでしまう。年収が高く、特に無駄遣いしているわけでもないのに思うようにお金が貯まらないという家庭の多くは、ここにお金が貯まらない原因があるケースが少なくない。

教育も家も車も全て上位ランクのものを好む

そして、日常の買い物もさることながら、高所得の家庭に見られるケースとして、都内にマンションもしくは一戸建て、子どもは中学から私立の学校に通い、年に1回〜2回は海外旅行、クルマも当然有名メーカーのものを購入…というように、教育も家もクルマも全て上位ランクのものを嗜好する傾向にある。

今回相談に来られた夫婦も都内の人気エリアにファミリータイプのマンションを購入、クルマも一流メーカーの人気車種に乗っていた。前述したように、今後子供が2人ほしいとの希望があり、希望通り子供を授かった場合には、2人とも中学から私立の学校に通わせ、大学まで行かせたいという。

一見、世帯年収が1000万円を超えているのだから、都内に持ち家を保有し、子供を私立の学校に通わせる、車も有名メーカーのものに乗るというのは不自然ではない。年に数回の海外旅行も許容範囲のように思える。

ところが、長期間にわたるキャッシュフロー表(家計の収支、貯蓄残等を表にしたもの)を作成してみると、家計にまったく余裕がなくなる、もしくは赤字に転落するケースがほとんどである。

親世代の常識は現代では非常識

このキャッシュフロー表の結果を見せると、多くの高所得の方たちは「信じられない!」という声をもらす。今回相談に来られた夫婦も例外ではない。「世間から見たら高収入の自分たちが、都内に家を持ち、子供を私立の学校に行かせ、クルマを持つという、自分たちの親が普通にやってきた事を叶えたいだけなのになぜ…」と、納得のいかない様子。

いまの30代、40代の親世代は、日本が高度経済成長時代に現役生活を送っている。高度経済成長時代は、終身雇用制度で雇用は安定し、年功序列で給料は右肩上がりで伸び、将来の年金や退職金もそれなりに保証されていた時代。つまり、国にも会社にも余力があったので、それなりの企業に勤めていれば、都内に持ち家、子供の学校は私立、クルマも保有、海外旅行も年に数回行きながら、老後も安泰というコースが約束されていた。

今の時代は、高度経済成長時代とは違い、日本は成熟社会に突入している。給与が伸びず、将来の年金も不透明な情勢で、昔の親と同じようなことをしようとすると、無理が生じる。

高所得の人ほど、ついあれもこれもと望んでしまいがちだが「高度経済成長時代を生きるマネープランと成熟社会で生きるマネープランはまったく戦略が違う」ということだ。

あれもこれもと望むのではなく、叶えたい夢に優先順位をつけ、メリハリの効いたマネープランを作ることが大切といえる。

高山一恵 (株)Money&You取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP)
2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務め退任後、(株) Money&Youの取締役へ就任。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。一生涯の「お金の相談パートナー」が見つかる場 FP Cafe を運営。