2015年の流行語大賞にノミネートされるほど社会問題となりつつある「下流老人」。この言葉を象徴する衝撃的な出来事として、新幹線車両内で焼身自殺を図ったニュースを覚えている人もおられるだろう。年金受給額の少なさから生活苦に陥り、将来を悲観したのではと言われているが、定年退職や自営業の廃業などにより生活水準が急激に低下、たちまち「下流老人」への道をまっしぐらに進むケースが増えている。
これは決して特殊なケースではなく、筆者の周りにも生活苦から冠婚葬祭費用が捻出できず、兄弟や親戚との縁を切るという究極の選択をした60代の女性がいる。こうした状況に陥らないためには、なるべく早い時期から老後を見据えた資産運用を始めておきたいところだ。そこで今回は、投資にいくらお金を回すべきかについて考えたい。
まずは使途不明金の把握から始めよう
投資をするには、基になるお金が必要だ。投資にいくら充てられるのかを知るために、最初のステップとして現在の収入と支出を把握することが重要となる。
実際に筆者が携わっている「暮らしとお金」の相談事例では、まず「何にいくら使っているのか」を確認してもらうが、貯蓄ができないと言っている家庭ほど「使途不明金」の金額が大きい傾向にある。もちろん、家計の見直しといえば、保険や住宅ローンの他に、通信費など固定費の削減を検討することも必要であるが、それ以前の問題としてまずは「使途不明金」の中身を確認し削減できるものを把握することが大切である。それが、ひいては無理なく将来のための貯蓄にまわせるお金を確保することにつながるからだ。
老後に必要なお金を知る
次に老後の生活をシュミレーションし、収入と支出の目安を確認しよう。その際は収入を少なく、支出は多めに見積もっておきたい。
収入の目安は「ねんきん定期便」である程度知ることができるが、受取りの時期や金額が将来変更となる可能性もある。また、年金の受給資格を満たしているかの確認もしておこう。会社員の場合は勤務先の制度として企業年金や退職金の規定、継続雇用の有無などもチェックしておきたい。
支出の目安としては、日常の生活資金やクルマの買い替えなど一時的費用もあるが、現役時代の約7割と想定しておけばいいだろう。忘れがちなのは税金や社会保険料、医療費や介護費用の増加が見込まれることである。医療費や介護費が高額になった場合には「高額療養費制度」を活用し自己負担を抑えることができるが、収入によって医療費負担の上限額が変わってくることに注意したい。また、定年退職から年金の受給までにタイムラグがある場合、生活費をどこから捻出するのかも考えておく必要がある。
総務省統計局の調査によれば、二人以上の高齢無職世帯について、2013年の1世帯当たり平均1カ月間の家計収支をみると、手取り収入は18万7098円となる一方、消費支出は24万6085円と、毎月5万8986円支出が上回っている。
老後の収入と支出から、将来必要な備えの目安が計算できるので、不足がある場合はもちろん、資産をできるだけ減らさない工夫もしておこう。男性の平均寿命が80.5歳、女性は86.8歳だが、できれば100歳まで生きる前提で計算しておきたい。
家計の何割を投資にまわすべきか
人それぞれ状況が違うので一概には言えないが、筆者は本多静六氏の著書「私の財産告白」が大いに参考になると考えている。貧農に生まれながら苦学して東大教授になり、巨万の富を築いた本多静六氏の独自の蓄財投資法は「収入の四分の一を強制的に天引き貯蓄」するというものだ。臨時収入とバイト代もまるまる貯蓄して倹約しながら投資の基を築いたそうで、たとえば手取りが20万円なら、その四分の一の5万円と児童手当などを含めた金額を貯蓄にまわすというイメージである。
実際、住宅ローンや教育費・親の介護などもあり、収入の四分の一を貯蓄にまわすのは至難の業。だが、一定の金額を先取り貯蓄することで知らぬ間に貯めグセがつき、残ったお金でやりくりする習慣が自然と身につくようになるというのは利点だろう。
「確定拠出年金」も毎月一定額を自動的に積み立てることができる制度で、節税しながら老後資金を貯めることができる。「企業型」と「個人型」があるが、60歳までは引き出すことができないので、強制的に時間を味方にしつつ老後資金の準備ができる。
「下流老人」とならないためには、働いて収入を増やすことも大事な要素。お金にもしっかり働いてもらい、将来の不安の芽を取り除く準備をしておこう。
辻本 ゆか 夫婦ふたりの暮らしとお金アドバイザー (CFP®)
大手金融機関にて個人向け営業に従事。その後、乳がんを発症した経験から、備えることの大切さを伝える活動を始める。現在は、子どものいないご夫婦やシングルの方への相談業務も行っている。
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