最近の上場企業のIRは非常に洗練されてきたと感じる。悪材料についても丁寧に投資家に説明する企業が増えている。だが、投資信託の運用会社が開催する投資家向けの「運用報告会」の内容は未だお粗末なものだ。悪材料についてはあえて触れず、好材料をアピールすることに重点が置かれたものさえある。

「現状は良くありませんが、長期で回復する可能性があります」など、根拠に乏しい希望的観測で締めくくられる運用報告会のなんと多いことか。あげく、懇親会という名で投資家を飲み食いさせてご機嫌取りをする運用報告会さえある。あなたは、なぜこの状況に違和感を覚えないのか。なぜ怒りを覚えないのか。懇親会でご満悦の笑みを浮かべている場合ではない。

分配金信仰が生み出した副産物

株に値段があるのと同じように、投資信託にも基準価額と言われるものがある。受益証券の1万口当たりの値段だ。銀行で金融商品の販売現場に長年携わる私が気になる点が一つある。それは、多くの投資家が基準価額が安い投資信託を選択する傾向にあることだ。販売する側も同様に基準価額の安い投資信託が「良い投資信託」であるかのように勧めているのも事実だ。はっきり言おう。その考え方は間違っている。

投資信託は設定時には1万円でスタートする。新規公開株の公募価格と同様に1万円を上回ると「割高」、1万円を下回れば「割安」と判断する投資家が実は大勢いる。しかし、投資信託の基準価額は資産価値を受益証券の数で割った数字に過ぎない。従って、この数字に割高や割安という概念をあてはめることはできない。

ところが、基準価額の高い投資信託は敬遠される傾向がある。なぜか? たとえば、トヨタ自動車の株価が7000円だとすれば、投資家はどのような基準でそれが割高か割安かを判断するのだろう。単純に7000円という株価だけで判断する投資家はいないはずだ。ましてや7000円のトヨタ株は高いのでダメ。140円のシャープ株は安いから良い。こんな判断を下す投資家がいるだろうか。株価の割安、割高を判断する基準としては、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった指標が用いられることが一般的だ。PER、PBRは投資対象となる企業の「質」から見て、価格が買い得か否かを図る手掛かりの一つとされている。一方、投資信託を運用の「質」から見て、投資判断する人は意外と少ない。多くの人が単純に基準価額が高い、安いで判断しているのはどうにも不可解だ。

なぜ、このような発想に至る投資家が多いのか。「少しでもたくさんの分配金が欲しい」そんな分配金信仰の副産物にほかならないのではないか。1万口当たり200円の分配金が出るファンドがあると仮定しよう。同じ金額で購入するなら、基準価額が5000円の投資信託は、基準価額1万円の投資信託の2倍の分配金を得ることができる。同じ投資金額で、よりたくさんの分配金を得られるファンドの方が投資家に好まれるという不条理な現実がある。

一概にはいえないが、基準価額が高い方が優秀な投資信託であることも多い。なぜ、基準価額が、高いのか。資産内容が優良だからだ。運用の「質」が高いからだ。ファンドマネージャーが選択した銘柄が値上がりし、その結果基準価額が上昇したのだ。逆に、運用がうまくいかなければ基準価額は下落する。運用の「質」が悪いからだ。あなたは、そんな運用成績の悪い投資信託を単純に安いという理由だけで喜んで買っているのだ。

投資信託の「質」を見分ける方法

では、良い投資信託と悪い投資信託はどのように見分けるのか。何度も繰り返すが、基準価額が高い安いだけで投資信託の良し悪しを判断するのはダメだ。過去にどれだけのリターンが得られたか確認する?確かにそれも必要だが、それだけではまだ不十分である。リターンを得るために、どれだけのリスクを取ったかということを確認しなければならない。一定のリスクに対するリターンの割合を比較することが重要だ。それを見定める手掛かりの一つにシャープレシオがある。

算式であらわすと、「シャープレシオ=平均収益率—無リスク利子率/標準偏差」となる。もう少し一般的な言葉に置き換えると、国債などのリスクの無い商品を除外し、どれだけの収益を得たのかを分子にあてはめる。分母はどれだけのリスクを取ったかだ。リスク1単位に対してどれだけのリターンを得たかということになる。

シャープレシオを見れば、ファンドマネージャーの腕前が明らかになる。当然ながら、リスクを抑えながら、より多くのリターンを得た投資信託が好ましい。運用の巧拙がこの数字に如実に表れることになる。多くの投資家はリターンだけしか見ていない。金融機関の販売担当者も同様だ。そもそも、シャープレシオの存在すら知らない販売担当者もたくさんいる。

試しにネットで「シャープレシオ 投資信託」と検索して見ると良いだろう。シャープレシオの考え方を知るだけで、投資信託の選択がずっと面白くなるはずだ。シャープレシオが高いファンドは価格のブレ幅が少ないと考えられる。逆にシャープレシオが低いファンドは価格のブレ幅が大きい。大きく相場が下落した後、相場の反発局面で投資信託を購入するなら、あえてシャープレシオの低い投資信託を選ぶのも面白いかも知れない。値段が大きくブレるということは、反発局面では大きく基準価額が上昇する可能性がある。

逆に相場が順調に推移しているとき、高値圏にあるようなタイミングならシャープレシオの高い投資信託を選択するという考え方もある。値段のブレ幅が小さいということは、相場の下落局面での下落幅が相対的に小さい投資信託である可能性が高い。

シャープレシオは、あくまでも過去の運用成績の評価であって、将来的にも同じ運用成績であることを示すものではないが、投資について学ぶ楽しさ、投資信託選びの面白さを実感できるはずだ。

あなたの資産は誰が守るのか?

株価の割高、割安の論理的説明を求め、納得できる答えを探す投資家はたくさんいるのに、なぜ投資信託については多くの投資家が判断材料を持たないのだろう。それは分配金を信仰する投資家だけの問題ではない。むしろ運用サイドの責任が大きいと感じる。

冒頭でも述べた通り、最近の上場企業のIRは非常に洗練されてきたと感じる。その一方で投資信託の運用会社が主催する投資家向けの「運用報告会」の多くは実にお粗末なものだ。そんな状況だからこそ、投資家自身が何らかの判断基準で投資信託の良し悪しを見極めるスキルを磨かなければならない。あなたの資産は、あなた自身で守らなければならない。投資は結局のところ、自己責任だ。(或る銀行員)

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