社内カンパニー,ガバナンス
(写真=Thinkstock/Getty Images)

トヨタ自動車 <7203> が2016年4月に社内カンパニー制を導入すると、日本経済新聞(電子版)が1月18日付けで報じた。高級車や小型車などに分割されたカンパニーが「製品企画から生産までの責任」を負う体制へ移行する模様だ。これまで多くの日本企業がカンパニー制を導入してきたが、東芝 <6502> では不正会計の温床になったとの指摘もある。果たしてカンパニー制は企業の生産性向上やガバナンス強化に効果を発揮するものだろうか。

社内カンパニーは「疑似子会社」

社内カンパニー制は1994年にソニーが初めて導入したと言われている。その後サントリーホールディングス、東芝、パナソニック<6752>、オムロン<6645>、川崎重工業<7012>、武田薬品工業<4502>、東京電力 <9501>など多くの大企業が採り入れている。

社内カンパニー制は、1つの会社の中に疑似的な会社を設置するものだ。カンパニーは独立採算の事業部門と位置付けられ、事業企画や生産、販売、人事などに関する意思決定と執行権限を持つ。資金調達・運用は本社機構の財務部門との間で行い金融収支の責任も負う。組織や権限・義務は子会社に近いものの、あくまで社内部門として設置されるため組織体制や権限内容などを機動的に変更できるメリットがある。

一方で、会社法や金融商品取引法に従い取締役会を運営したり決算を行ったりするわけではないため、権限や責任があいまいになる危険性がある。企画、経理、法務、人事などの管理部門が本社機構と各カンパニーに設置され、カンパニー数が多いと販売管理費が過大になる恐れもある。また、本社機構の求心力が弱まると、事故や不正行為に関する情報がカンパニー内で隠蔽されたり、全社の英知を集めた新規事業開発が進めにくくなったりするケースもみられる。

導入のカギ その1:目標管理体制の整備

では、社内カンパニー制の実効性を高めるためには、どのような点に注意すればいいだろうか。まず、カンパニーとその経営者(カンパニー長)の目標を明確にしなければならないだろう。取締役会が売上高、営業利益などの財務計数のほか、新規顧客開拓、新規事業開発、製品事故、労務管理、情報セキュリティなど重要事項の達成目標を具体的に課すことが大切だ。

次に必要なことは、目標達成状況を合理的に評価するための基準と手順の構築だ。例えば、部門別会計制度が未整備で本社機構の経費配賦やカンパニー間の損益按分ルールが不合理なものであれば、売上や利益目標の達成を強く求められないだろう。

さらに、目標達成に必要な意思決定と業務執行の権限、人材や設備、資金などの制約条件を明確にするとようやく疑似子会社である社内カンパニーを有効に機能させる条件が整うことになる。

目標、権限、制約条件のすべてが明確かつ合理的でなければ、取締役会が各カンパニーの経営責任を問うことができず、情報の隠蔽や責任の押し付け合いなどセクショナリズムの弊害ばかりが目立つことになりかねない。

導入のカギ2:監視機能の整備

社内カンパニーは独立した事業体として機能することを期待されているが、それは取締役会が定めた枠組みの中でのことだ。取締役会がカンパニーの目標、権限、制約条件を適切に設定するとともに、その遂行状況を的確に監視し必要な是正措置を発動することが求められる。

社内取締役は現職・元職のカンパニー長であっても特定カンパニーの代表者ではなく、すべてのカンパニーの行動・業績を監視する立場にあることを肝に銘じなければならないだろう。東芝の場合、歴代社長がカンパニーの実質的代表者と化しチャレンジという言葉の下で無理やり予算達成を図ろうとしていたようだが、それは取締役の職務執行に対する監督義務を放棄するものだ。

このような社内取締役が的確に監督義務を果たさない事態に備え、会社法では社外取締役や監査役(または監査委員)の選任ついても規定している。これらの業務執行に直接関与しない役員は、会計監査人(監査法人)と内部監査人の協力を仰ぎながら社内カンパニーの経営状況を監視する立場にある。

しかしながら、社外取締役・監査役の大半は社長など社内関係者の「お友だち」であるため、社内取締役を超える監視機能を発揮しない(できない)場合が多い。東芝の不正会計が発覚した際の社外取締役は4名だったが、いずれも「お友だち」の域を出ていなかったのではないだろうか。

また、社外取締役・監査役が会計監査人や内部監査人と十分な連携を果たすことが困難な状況もみられる。2015年5月に改正会社法が施行されるまで株主総会へ提出する会計監査人の選任議案を取締役会が決定していたり、内部監査人の指揮・監督権が取締役会や社長に属していたりすることが強固な関係構築を阻んできた。

業務執行責任者を兼ねる社内取締役とその配下のカンパニー長に対する監視を強化するためには、アメリカのように重要な意思決定・監視機能を担う取締役(Director)と業務執行役員(Officer)を明確に分離するとともに、監査役会(または監査委員会)が会計監査人と内部監査人の選解任権、報酬決定権、指揮命令権を完全に有する体制へ移行することも必要だろう。

十二社 睦雄(経営コンサルタント)
日本銀行において金融制度調査、市場慣行整備、金融機関指導等に携わった後、外資系コンサルティング会社でコーポレート・ガバナンス、内部統制等に関するプロジェクトを運営。現在は、独立コンサルタントとして活動するとともに、複数企業の社外役員を兼務。

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