ETFは証券取引所に上場され売買される投資信託だ。と突然言われても投資初心者の方にはピンとこないかもしれない。要するに通常の株式と同様に時価で売買できる投資信託のことだ。ETFは信託報酬(ランニングコスト)も低く設定されている。また日経平均株価(日経225)やTOPIX(東証株価指数)など、日々のニュースでお馴染みのインデックスに連動するETFで運用することもできるので、投資初心者にもお勧めの運用商品だ。ETFには他にも様々な種類があり、それらを自由に組み合わせることで、自分だけのポートフォリオを作ることも可能なのも大きな魅力である。
ETF選びの前にやるべき「3つのステップ」
今回は下記の相談者へのアドバイスを想定し、ETFを活用した「自分ポートフォリオづくり」の具体例を紹介する。「想定相談者」は30代の共働き夫婦で、子供はなし。夫婦合わせて800万円の年収がある。出産、育児、子どもの教育、親の介護、定年退職後など数十年先の将来を見据えた運用を希望している。
ETFは投資初心者にお勧めと書いたが、だからといっていきなり証券会社でETF選びを始めてはいけない。このことは肝に銘じて欲しい。まず「第1ステップ」として検討しなければならないのは、自分自身で「運用方針」を決定することだ。
相談者は、これから出産も希望され、親の介護のことも考えなければならない。まずはじっくり家計分析を行い、「急病など不測の事態が起きたときに、いつでも引き出せる手元資金をいくら確保すべきなのか?」「5年以上の長期運用資金はいくらか?」「長期運用資金の運用目標は何%とするのか?」等を明確にしなければならない。それらが決まらないと何を基準に商品を選べばいいのか判断できないからだ。
大まかな資産配分を決定する
第1ステップで家計分析を行い長期運用資金が決定したとする。しかし、具体的な運用商品を決めるのは早計だ。「第2ステップ」はアセットアロケーション(資産配分)の決定である。アセットアロケーションとは国内株式○○%、海外株式○○%と大まかな投資分野を決定すること。実は運用の世界では、具体的な商品選定よりも、大まかな資産配分の決定に9割の力を注ぐべしと言われているくらい、アセットアロケーションは重要視されている。
資産配分を決定したら、いよいよ「第3ステップ」で具体的な運用選定に入る。今回の相談事例では、金融資産残高、生活資金等の詳細がないので一概には言えない。ただし、筆者が実際に携わったFP相談の経験上、今回のようなケースで長期運用資産の目標は「4~5%」に設定することが多い。
それでは、本稿でも運用目標を4~5%に設定し、ETFを活用した「自分ポートフォリオ」を組んでみよう。
「自分ポートフォリオ」長期運用で4~5%を目指す
筆者が推奨する「自分ポートフォリオ」は下記の通りである。
①日本株式 10% TOPIX連動型上場投資信託 <1306>
②先進国株式 30% 上場インデックスファンド海外先進国株式 <1680>
③新興国株式 10% 上場インデックスファンド海外新興国株式 <1681>
④先進国債券 30% 上場インデックスファンド海外債券毎月分配 <1677>
⑤REIT 20% (NEXT FUNDS)東証REIT指数連動型上場投信 <1343>
商品選定は幅広い「国際分散投資」に主眼を置いて選択した。さらに今後の円安による物価上昇リスクを意識して海外資産比率を高めにしている。
ここに提示した「自分ポートフォリオ」はあくまでも一例である。さらに分散効果を高めるためには、海外の不動産が投資対象のETFを組み込むのもありだろう。分散投資を推奨する理由は、株式、債券、不動産等値動きの違うものを組み合わせることで、そこそこの収益を狙いながら、値下がり幅も抑制させる効果が期待できるからだ。
ちなみに、上記「自分ポートフォリオ」の過去の平均リターンは13.7%である(本稿執筆時点)。しかし、あくまで過去のデータであり、将来を保証するものではないことを付け加えておきたい。
幅広い国際分散投資で運用効果を目指す
上記で筆者が推奨した各ETFの解説、選定理由については以下の通りである。
①TOPIXは東証一部に上場する全銘柄(約1900銘柄)の時価総額から算出される。ゆえに225銘柄が算出対象の日経平均株価よりTOPIXは分散効果が高いといわれている。今回は幅広く分散効果を享受することを期待しTOPIXを選定した。
②上場インデックスファンド海外先進国株式は、日本を除く先進国株式市場に投資をする際の代表的な指数。投資対象は米国、欧州等20カ国以上。
③上場インデックスファンド海外新興国株式は、新興国株式市場に投資をする際の代表的な指数。投資対象は香港、韓国、シンガポール等20カ国以上。
④上場インデックスファンド海外債券毎月分配は、日本を除く世界主要国の国債市場を対象とする指数。投資対象は米国、欧州等20カ国以上。
⑤東証REIT指数連動型上場投資信託は、日本の不動産を投資対象としたETF。株式、債券に値動きの異なる不動産を加えることでさらなる分散効果を期待し選定。
なお、上記②〜④はいずれも幅広い国際分散投資による運用効果を期待した選定である。
「自分ポートフォリオ」を運用する際の留意点
運用は商品が一度決まれば終わりではない。定期的に、最低でも1年に1回のタイミングで資産配分の見直し(リバランス)を行わなければならない。
たとえば、今回の「自分ポートフォリオ」の場合、運用開始1年後に日本株式30%、先進国株式10%と運用結果として資産配分が変化したとする。リバランスとは、ここで日本株式20%分を売却し利益を確定させ、配分比率が下がった先進国株式を追加購入し、資産配分を上記①〜⑤の比率に戻すことをいう。
このリバランスを行わなければ、値動きのある運用商品は上がったり、下がったりと波乗りを繰り返し、気がつけば資産配分の比率が滅茶苦茶になる危険性がある。その点市場に上場しているETFは、刻々と変わる市場価格を把握して売買の判断ができる。つまり、リバランスがしやすいということだ。ETFは、一般の投資信託に比べて機動性があり、使い勝手の良い金融商品といえる。
今回の「自分ポートフォリオ」は通常の投資信託でも作成可能である。しかし、ETFと通常の投資信託との違いは「費用の安さ」にある。同じ商品であれば費用は運用効率にかかわるため「安い」に越したことはない。
ETFは金融機関の儲けにならない商品のため、積極的に紹介されない地味な存在である。だが、この機会に是非ETFについて勉強し、資産を育てる便利な道具として活用して頂きたい。
寺野裕子 てらの・ファイナンシャルプランニングオフィス代表
CFP ・1級FP技能士、投資助言業
2008年FP相談業務開始。2014年事務所運営スタイルを金融機関等からの紹介手数料等は一切得ず、報酬は顧客からの相談料のみとするフィーオンリーへ移行。「ファイナンシャルプランニングは100人100様」をモットーにライフプランの実行支援を行っている。
FP Cafe
登録FP。
※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。