30代のマネー相談を受けていると、非常に堅実なことに驚く。就職氷河期を経験し非正規で働いている人も多いからだろうか。しかし、堅実なだけではなかなかお金を増やすことは難しい。そこで今回は、できるだけ投資コストを抑え、長期的な資産形成を図る手段としてETFを活用した「自分ポートフォリオ」を考えたい。

「自分ポートフォリオ」づくりのポイント

今回の「想定相談者」は30代の共働き夫婦だ。夫は正社員、妻はパートタイマーで、夫婦合わせて800万円の年収、まだ子供はいない。貯蓄額は200万円で「出産や子供の教育資金、親の介護、定年退職後の生活費など10年から20年先を見据えた運用を始めたい」が相談の趣旨だ。

ちなみに、筆者の実際の個別相談では「投資を始めたいのですが、何を買ったらいいですか?」との質問を良く受ける。しかし、資産運用を始めるには、商品を決める前にポートフォリオを考えることが重要だ。目的にあわせ分散投資をすることで、リスクをある程度抑えながら、安定的に運用することができるようになるからだ。

今回の想定相談者は30代であり、セカンドライフに向けた準備など運用期間を長くとれるため「攻めの運用」ができる。同時に出産や育児に備える費用など、堅実な「守る運用」も考える必要がある。ETFは簡単に分散投資ができ、なおかつ手数料が安いので、これからの資産形成を始める30代にはお勧めの運用商品といえるだろう。ただし、緊急時に備えるため、1年程度の生活費を確保したうえで運用する金額を考えたい。

子供の教育費が本格的にかかるまでの「時間」を有効活用

それでは、筆者が推奨する「自分ポートフォリオ」を紹介しよう。

(1)日本株   30% TOPIX連動型上場投資信託 <1306>
(2)米国株   26% バンガード・トータル・ストック・マーケットETF
(3)米国債   19% バンガード・米国トータル債券市場ETF
(4)新興国株式 10% バンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF
(5)不動産    15% (NEXT FUNDS)東証REIT指数連動型上場投信 <1343>
※日本の取引所には上場されていない海外ETF、証券会社で購入

アセットアロケーションは、世界の年金基金でも積極運用で知られるカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)の配分を参考にしている。今回の相談者のケースでは、子供の教育費が本格的にかかるまでの時間を「お金の貯め時」と位置づけ有効に活用したい。

投資コストの安さと分散効果で選定

上記ポートフォリオのETFの詳細・選定理由は下記の通りである。

(1)TOPIX連動型のETF。東証1部に採用されている約1900銘柄が組み込まれているので、これだけで日本株の分散投資ができる。日々のニュースなどで指数が取り上げられるため、市場環境が把握しやすくコストが安いのも特徴だ。無理なく少額から続けられること、NISAを利用することで税制面でもメリットが受けられることが選定理由である。なお、一部の証券会社では積立投資も利用できるが、その分手数料が高くなるので注意されたい。

(2)99%以上が米国株で占められている海外ETF。このETFを購入すると、アップルやマイクロソフトなどを含む、米国の約3800社の上場企業に分散投資が可能である。コストも年率0.05%と非常に安い。米国の株式市場も日々のニュースで取り上げられるため、市場環境が把握しやすいのも選定理由である。

(3)米国債券約9500銘柄から構成されている。コストの安さもさることながら、投資をするのに適格とされるトリプルB以上の債券市場全体へ幅広く分散投資できるのが魅力である。

(4)欧州・南米・アジアなどの新興国22カ国で構成される、新興国の株式市場での運用を目的とした海外ETFで、全世界の新興国市場の大型株・中型株が対象となる。現状では中国を始めとする不安定な新興国市場も含まれているが、10年から20年の長期間で見れば成長性の高い市場と判断して組み入れた。コストが安いのも魅力だ。

(5)東証REIT指数への連動を目的に運用を行うETF。東証に上場する不動産投資信託の全銘柄を対象としており、これ1本で分散投資できるのが特徴。手数料は他のETFに比べて割高となるが、流動性が高く換金しやすい点を評価して選択した。

運用の秘訣は早く始めて長く続けること

ETFは株式と同じく、その時々の価格に応じて市場で取引をするので、毎月同じ金額で購入できるとは限らないのがデメリットである。また、ポートフォリオを組んでも、価格変動によって配分比率にズレが生じやすいので定期的なリバランスも必要だ。ただし、リバランスについては過度に神経質になる必要はなく、ざっくりとした配分を維持するように心がけよう。

先に述べた通り、今回提案した自分ポートフォリオは、子供の教育費が本格的にかかるまでの時間を「お金の貯め時」と位置づけて組んだものである。従って、子供の教育費がかかる時期を迎えたら運用方針を見直し、「守りの運用」への政策転換を検討したい。たとえば、出産後のマネープランとして大学入学年度の費用を、児童手当から毎月1万円、ボーナスから毎年5万円積立てるなど手堅い備えをするのも良いだろう。場合によっては、ETFで組んだ自分ポートフォリオを縮小し、その資金を大学費用の積立に充てるのも一法だ。

ともあれ、資産運用の秘訣は早く始めて長く続けることにある。ETFを活用した「自分ポートフォリオ」で、将来の不安の芽を一つずつ摘んでおきたい。

辻本 ゆか 夫婦ふたりの暮らしとお金アドバイザー、CFP
大手金融機関にて個人向け営業に従事。その後、乳がんを発症した経験から、備えることの大切さを伝える活動を始める。現在は、子どものいないご夫婦やシングルの方への相談業務も行っている。 FP Cafe 登録FP

※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。