日米を含む12の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)参加国は2月4日、最終協定文に署名し、各国議会での承認に焦点が移った。それぞれの国のTPP推進派は、国内の説得に向け動き出している。

こうしたなか「TPPの盟主」である米国で、「TPPが批准されて発効すれば、加盟国での女性のビジネスや職場での活躍の場が増え、消費者としても選択肢が増えるので、いいことずくめだ」との主張が出された。

TPPが女性にとって福音であると唱えるのは、日本でもおなじみのウェンディ・カトラー元米通商代表補だ。2015年に米通商代表部(USTR)を退職後、首都ワシントンのシンクタンク、アジア社会政策研究所(ASPI)副所長を務めるカトラー氏は、2月3日付の米政治評論サイト『ザ・ヒル』に寄稿し、「TPPの開発分野の協定文には、女性のエンパワーメントと経済発展が規定されている」と述べ、加盟国が女性の利益向上のため行動する義務があることを指摘した。

同氏は、「女性のエンパワーメントは、アジア太平洋地域の経済発展の可能性をフルに引き出す上で、不可欠だ」と論じ、「マッキンゼーの2015年の試算によれば、同地域で男女の労働参加率が同じになることで、地域全体の国内総生産(GDP)が、総額で11兆ドル(約1300兆円)も伸びる。その雇用増大の可能性を引き出すことになる重要な役割を果たすのがTPPだ」と主張した。

さらに、「労働者としての女性は、TPPによる女性の権利向上がもたらす労働組合による集団交渉権、最低賃金を含む労働者保護の強化、労働環境の安全向上、そして特に男女雇用差別や強制労働の禁止で益を得る」とカトラー氏は言う。また、TPPでモノ、ヒト、カネの流れが自由化されることにより、「低くなった貿易障壁のおかげで、雇用主としての女性は、製品やサービスをオンラインで販売する機会が増大する」と述べ、同協定が女性の活躍の場を増やしていくと示唆した。

一方、「消費者や世帯主として、女性はTPPがもたらす、より多くの商品購買の選択肢や低価格でトクをする」という。そして、「母親として、女性はTPPが定める環境保護基準のおかげで、子供たちにより緑豊かでより汚染が少ない世界を引き継がせることができる」のだという。カトラー元米通商代表補の描くTPPは、女性にとっての福音や救済そのものであり、鮮明なバラ色だ。ただし同氏は、「輸入急増などによる(産業構造への)挑戦や適応の苦しみもある」とも言う。だが、そのような痛みを和らげるための移行期間が設けられており、ショックは最低限で済むのだという。

そして長い目で見ればTPPの発効後、「女性の方が、男性よりTPPがもたらす新しい経済環境に適応しやすく、勝者になれる」とカトラー氏は説く。最後に、「こうした女性の受益は何世代にもわたって続く。米議会は、その実現のため、TPPを批准することが非常に重要だ」とカトラー氏は結んでいる。

ヒラリー候補は現行の協定文に反対

女性とTPPの関係を語るうえで、もう一人、重要な人物がいる。民主党の大統領候補でフェミニストの期待の星、ヒラリー・クリントン氏だ。クリントン候補は2月4日の民主党大統領候補の討論会で、「私は国務長官時代にTPPを支持してきたが、昨秋に合意された最終協定文を見ると、期待した内容ではない。

だから、反対に立場を変えた」と発言。さらにクリントン氏は、カトラー元米通商代表補が主張する「TPPは労働者保護に貢献する」との主張を退け、「グローバル経済の中で他国の労働者と競争する米国人労働者の権利が十分に守られていないなど、不満足な内容であるため、現状では支持できない」と付け加えた。

米メディアは、こうした立場がTPPそのものに対する反対ではなく、条文がより米国に有利になるよう再交渉で変更が加えられれば、再び賛成に回るという意味だと解説している。こうしたなか、TPPが日米をはじめ加盟国の女性の広範な支持を得られるのか、そして本当に女性を救うことになるのか、ジェンダー問題が絡み、TPPの行方が注目される。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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