値上がり益とインカム収益

前回説明したように、成長性が高い「企業」への投資は、「国」への投資に比べて、インフレを十分に上回る収益が期待できる。しかしこの魅力は、もちろんリスクと隣り合わせなので、安定性をどう確保するかが問題となる。

そのヒントは、投資で得られるリターンの性質だ。一般に投資のリターンは、値上がり益とインカム収益に分けられる。値上がり益は株価や債券価格の上昇分だ。もちろん値下がりでマイナスとなる可能性も十分ある。一方、インカム収益は株式の配当金や債券の利金など、いわゆる利配収入だ。短期金利ではマイナス金利という例外的な状況はあるが、一般的には企業関連資産のインカム収益がマイナスとなることはない。

インカム収益を積み上げる魅力

例えば年5.0%の利回りがある資産を想定しよう。100万円の投資で1年に5万円利金を受け取れる。利金を再投資せずに手元に置いたとして、2年経つと利金の積み上がりは10万円となる。10年経てば、利金の合計は50万円、元本と合わせて資産は150万円になる。(もし利金を再投資すれば、資産合計は166万円になる。)

もちろん年5.0%の利回りがある企業関連資産に投資しているので、インカム収益以外に資産の価格変動はある。ただ、この投資は、あらかじめ10年で100万円を150万円へ増やすことをベースシナリオとして想定できる点に魅力がある。価格変動の影響が中立的なら総合収益は150万円、価格が上昇すれば、総合収益はより高まる。

逆に、価格が下落すれば総合収益は150万円を下回るが、積み上がったインカム収益が下落した分を補うクッションになる。仮に10年間で価格が大幅下落して半値になり、元本100万円が50万円になっても、利金50万円を併せれば合計100万円となり、元本相当分は確保されるのだ。

この投資の根幹は、「インカム収益はマイナスにならず、毎年プラスで積み上がる」という事実にある。では実際にこのような投資は実現できるのか?過去の市場指数で検証してみよう。

インカム収益の比率がなぜ大切か

実際の市場指数を使って世界株式と世界社債の投資成果を見てみよう。
2005年末に投資元本100で投資した場合、10年後の2015年末までの投資成果はどうなっているか?

世界株式に投資すると、資産は72増えて、総額172へ増加する。年あたりでは5.6%の上昇率となる。増加分72の内訳は、値上がり益が40、配当などインカム収益が32だ。意外にインカム収益の比率が高い気がするが、日ごろ意識しない配当の積み上がりが意識している以上に大きいということだ。それでも値上がり益の比率が大きいので、投資成果の変動は大きい。

10年の投資期間中、累積の投資成果がマイナスになる、すなわち元本割れして嫌な思いをする期間が17カ月、約1年半もある。その間、100の元本は最大で65以下まで目減りする。この間にリーマン・ショックがあったとはいえ、どう考えても初心者には厳しい数字だ。

では世界社債に投資すると、どうなるか?

同様に元本100の投資で、資産は74増えて、総額174へ増加する。年あたりでは5.7%の上昇率と、世界株式とほぼ同等だ。世界株式と全く異なるのは増加分74の内訳だ。値上がり益が▲10、利子などインカム収益が84だ。つまり債券価格は下落したが、インカム収益の積み上がりでカバーしたということになる。

これほどインカム収益の比率が大きいと、当然投資成果の変動は世界株式に比べて小さい。10年の投資期間で、元本割れした期間は6カ月、しかも投資成果がマイナスとなった6カ月中、1割以上のマイナスとなったのは1カ月だけで、残り5カ月は1桁の下落率にとどまっている。10年間の投資でマイナス期間が6カ月、概ね1割以下の損失であれば、初心者でも持ちこたえられるのではなかろうか。

投資の安全圏を増やせる「インカム投資」

この明暗を分けたのはインカム収益の比率だ。繰り返しになるが、インカム収益はマイナスにならない。投資して年を追うごとに確実にプラスが積み上がってゆく。このプラスの積み上がりは、投資成果の長期的基盤となる。もちろん価格変動次第で最終的な投資成果は変動するが、少なくとも、10年間で+50%などの投資の基本シナリオが見えるので、投資初心者にとって理解しやすい投資ができるということだ。

インカム収益の魅力はもうひとつある。積み上がったプラスの収益は、価格変動に対するクッションとなり、元本割れリスクの抑制や下落率の低減が期待できる点だ。

世界社債の例でいえば、投資開始5年後には、100の元本に対して、インカム収益が43積み上がっている。これは債券価格が4割以上下落する大暴落が来ても元本が割れないことを意味する。

インカム収益の比率が高い企業資産への投資、これを私は「インカム投資」と呼んでいる。「インカム投資」の投資対象は世界社債だけではない。ローンや、配当利回りの高い、いわゆる高配当株式も対象になりえる。ちなみに、高配当株式の10年投資では、資産は68増えて、総額168へ増加した。その増加分68の内訳は、値上がり益が14、配当などインカム収益が54と、インカム収益の比率はかなり高い。

「インカム投資」は、投資成果の予想が立てられる投資であり、また年を追うごとにクッションが積み上がるので、投資の安全圏が広がる投資といえる。

では次回で「インカム投資」を使った「損しない投資」について、ご説明しよう。

表1

(注)RIMESよりフィデリティ投信作成。期間は2005年12月末~2015年12月末。米ドルベース。各収益は投資元本を100とした場合の収益(投資元本は含まず)。世界株式はMSCIワールド・インデックス、世界社債はバークレイズ・グローバル総合・コーポレート・インデックスとバンクオブアメリカ・メリルリンチ・グローバル・ハイ・イールド・コンストレインド・インデックスの均等平均。価格変動は総合収益とインカム収益の差から算出。

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